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第4章 視線



 続くシャワーの音で、意味がないとはわかっていた。
わかっていながらも、マナーとして一応洗面所の扉をノックする。
案の定、風呂場の霧野は気づかないようで、シャワーの音は止まらなかった。

 ノブに手を掛けると何の抵抗もなくすんなりドアが開いて――思わず舌打ちが出た。
鍵くらい掛けろよ。
意識されていないという事実が神経を逆撫でする。
幸いにも、風呂場の霧野には聞こえていないようだった。
洗面所には霧野の仕事鞄だけが残されていて、大学時代から足掛け十年ものの洗濯機が、小刻みに揺れながら働いていた。



「霧野ー」

 声を掛けると、ようやくシャワーの音が止まった。

「タオルと着替え、洗濯機の上置いとくから」

「あ、ありがとう。お借りします」



 何だよ、平然としちゃって。俺はこんなに気が気じゃないというのに。



「困りごととかない? 大丈夫?」

「うん、ありがとう。すぐ出るからね」

「いいよ、ゆっくりしな」

「ありがとう」

「おう」


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