この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
unbalance
第4章 視線
続くシャワーの音で、意味がないとはわかっていた。
わかっていながらも、マナーとして一応洗面所の扉をノックする。
案の定、風呂場の霧野は気づかないようで、シャワーの音は止まらなかった。
ノブに手を掛けると何の抵抗もなくすんなりドアが開いて――思わず舌打ちが出た。
鍵くらい掛けろよ。
意識されていないという事実が神経を逆撫でする。
幸いにも、風呂場の霧野には聞こえていないようだった。
洗面所には霧野の仕事鞄だけが残されていて、大学時代から足掛け十年ものの洗濯機が、小刻みに揺れながら働いていた。
「霧野ー」
声を掛けると、ようやくシャワーの音が止まった。
「タオルと着替え、洗濯機の上置いとくから」
「あ、ありがとう。お借りします」
何だよ、平然としちゃって。俺はこんなに気が気じゃないというのに。
「困りごととかない? 大丈夫?」
「うん、ありがとう。すぐ出るからね」
「いいよ、ゆっくりしな」
「ありがとう」
「おう」