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unbalance
第28章 先約
しかし、こういうときに限ってすれ違いは続くものである。
金曜日、私も相馬も恙なく仕事をこなし、夕方には二人とも会社に戻って、デスクワークをしていた。
私は心なしかそわそわしていたし、たぶん相馬もそうだと思う。
相馬は珍しく席に座って書類を作っていたけれど、すぐ人に話し掛けられたり立ち動いたり、あんまり進んでいるようには見えなかった。
私は今夜の残業をできるだけ短くするべく、一心不乱にデータと睨めっこしていた。
大きなトラブルも起きずに、定時まであと十五分、私の緊張がマックスに達したときだった。
部長にいつものがなり声で声を掛けられて、嫌な予感がした。
「こないだの資料のことだけどな」
こないだの資料ってなんだっけ?
咄嗟に記憶を手繰り寄せて、月曜日に作り直した例の資料に思い当たる。
部長に頼まれた資料でいちばん最近のものだから、たぶんあれだ。
頼むから、「こないだの資料」じゃなく、タイトルとか内容とか送り先とかで言ってほしい。
こっちはあなたの資料だけ作っているわけじゃないんだから。
なんて反論はもちろんできない。