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第29章 約束



「この時間開いてる店少ないから、ごめん、独断でバーなんだけど。お酒は飲まなくてもいいから」

「う、うん」



 こんな時間に会社のほうに向かって歩くなんて奇妙な感じがしながら、女物の仕事鞄を提げて歩く相馬の後を追う。
終電は日付が変わるころまであるから、いざとなっても帰れるけれど、駅前のお店はだいたい十時には閉まるはずだ。
私も気になってはいたところだった。



「相馬の家でもいいけどね」

 閉店時間もないし、楽じゃない? というつもりでそう言うと、

「……霧野、いい加減にしたほうがいいよ」

 急に相馬の声のトーンが低くなってびっくりする。

「え、何?」



「うち来たら俺の我慢が効かなくなるから、外で話したいって言ってんの」

 俺、霧野のこと好きって言ったよね? と吐き捨てるように言われて、ぶわっと頬が熱くなる。

「そういう話を、今からするんだよ」



 私は相馬に見られないように顔を伏せたまま、若干早足になった相馬の足元を、ひたすら追っていくしかなかった。


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