この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
unbalance
第29章 約束
「はい」
不意に、相馬が右手を差し出した。
「えっ」
私は体を硬直させる。
こんなところで?
だって……会社の人が通るかもしれないし……そもそもまだ付き合ってもいないのに――、
「どうしたんだよ」
相馬が何でもないように私に一歩近づいて――私が固まっているあいだに鞄を取り上げた。
あ、鞄――鞄、ね。
「手ぇ繋ぐかと思った?」
相馬がいつものにやにや顔で、私を覗き込む。
「そっ、そんなわけ、」
「まあ、まだ、ね」
ふっと笑って、
「返事もらってないんでね。まだ、我慢しますよ」
……ずるいよ、そんな言いかた。
相馬が、行こうか、と徐ろに歩き出す。