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第30章 個室



「いらっしゃい。お、来たね、相馬くん」

「すみません、急に電話して」

「ぜんぜん。個室、入って」



 こぢんまりとした、個人経営然としたお洒落なバーの扉を、相馬は躊躇いもなく開き、マスターと思しき人と親し気に話す。



 温かみのある木を基調としたバーだった。
カウンター席の他に、二人掛けのテーブル席が二つ。
さすが金曜日だけあって、ほとんど埋まっている。
知っている顔はなくてほっとする。

さらに奥に、少し隔離された四人掛けのテーブルがあって、そこに私たちは通された。
相馬に奥のベンチを勧められて素直に座る。
相馬は私と向かい合うように座る。個室を作ったというよりは、たぶん建物の設計の都合上、結果的にこういう席ができたんだろう。



 この席からはカウンターが見えなくて注文がしづらいようだけれど、確かに他のお客さんたちと少し離れていて、内緒話もできそうだ。
席に座ってしまうと、いちばん近いテーブルのお客さんの背中が見えるだけ。


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