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第31章 ラフロイグ



 ごめん、と相馬が、触れさせたときと同じぐらい唐突に、脚を離した。
 ――行かないで、と思ってしまったら、もう駄目だった。



 ずるいよ、一人だけ、そんなしんどそうな顔しちゃってさ。



 エアコンの空気があっという間に、布越しに感じたはずの相馬の熱をなかったことにしていく。
私は足を伸ばす。
何かに当たる感触がする。
傍から見たらただの無言が続くなか、テーブルの下で静かな攻防が行われる。



 相馬がすっと足を引いた。

 ――逃げるの?

 どうして?



 行っちゃうの?



「……相馬が、悪いんじゃん」

「え?」



 涙が滲んでくる。
やっぱり駄目だった。
せっかくこらえていたのに。



 ――あんな仕事人間、つまんないだけですって。可愛げもないし。



 脳内で反芻してしまって、もう何度抉ったかわからない傷がまた痛んだ。



「私は、ずっと」

 今日は言わないと決めた言葉が、涙と一緒に溢れ出る。

 あ、私、酔ってる。

 やだ、相馬の前で泣きたくなんてない、



「相馬が、私のことそういう目で見られないって言うから、私、ずっと、我慢してたのに」


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