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unbalance
第32章 記憶
「注文お願いします」
相馬がカウンターのほうに声を掛けると、はーい、とさっきのマスターさんの声が聞こえてくる。
私は鏡で最終確認をして、ポーチを仕舞う。
相馬が残りのウイスキーを煽った。
「相馬……ペース早くない? 大丈夫?」
「大丈夫じゃねえよばーか」
脈絡も中身もない悪口が飛んできた。え、なに急に。
すぐにマスターさんが来て、相馬は、ウイスキーを指定してハイボールを頼んだ。
「普通にいつもの感じで作っていい? 弱めにしとく?」
「いつも通りで大丈夫です」
マスターさんは相馬をちょっと心配そうに見たけれど、何も口を挟まなかった。
「彼女さんは?」
急に話を振られてビビる。
頼むつもりじゃなかったけど、でも、今頼めば来るまでには飲み干せるかもな。
相馬ばっかお酒頼んで、一人で酔いが醒めるのも怖いし……。
二杯目、頼んじゃおっかな。
でも、ぱっと頼めるほど詳しくない。
咄嗟に相馬を見てしまう。相馬は少し首を傾げて、
「お任せしてみる?」
「あ、お、お任せ……」
したことない、けど、その言葉は、何だか「通」っぽくて、ちょっと相馬のいるステージに近づける気がした。