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unbalance
第35章 コンビニ

なんで本命に対してだけそんなに下手なんだ――というのは事実としても、下手なりにアプローチをしていたつもりだった。
俺なんかじゃ釣り合わないとか貧弱なことを言う気はないし、実際、ぐずぐずしていたわけでもない。
好きだと気づいたときから、全力で落としにかかる。
これまでの恋愛もそうだったし、霧野だって。
ただ――
「霧野のこと、越えようと思ってたんですよね」
「越える?」
「その……仕事で」
マスターさんが、あー、と納得した声を出した。
「一位なんだっけ?」
「……まあ……。だから俺が越えて、それで正々堂々、と思ってたんですけど」
霧野が一位になって次の年には、俺も必死で二位まで追い上げた。
そこから先は――
「越えたの?」
「……まだです」
仕方なくそう答えると、はっはっは、とマスターが笑った。
「次は越えますよ! 来期!」
「あれ、まだ目指すの? もう付き合っちゃったじゃない」
「そうなんですけど! そうじゃないんです!」
あまり大きい声を出すと霧野に聞こえる、と、俺は慌てて声を潜めた。
「そういう問題じゃないんです」
「ま、応援はしてるよ。仕事のほうも、霧野さんとの仲も、さ」
「……ありがとうございます」
マスターがカードを持って戻ってきたとき、俺はちょうどハイボールを飲み干した。

