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第35章 コンビニ



 テンパって逃げようとする霧野を俺は慌てて抱きとめる。
今動くのは悪手だ。
このままここにいれば、見つからない確率は高い――声の主が、隣の車の持ち主じゃない限り。



 俺は彼女をしっかり俺の肩に伏せさせて、自分も顔をあげずに、ただ見知らぬ人たちが過ぎ去るのを待った。
俺のか霧野のかわからない心臓の音がどくどくと鳴っていた。



 幸い、通行人の集団は駐車場の前の道路をただ喋りながら横切っただけだった。
声が聞こえなくなるまで俺らはじっと動かないでいて、それからようやく顔を上げた。



「……霧野」

 俺は十センチ離れたら聞こえないような囁き声で、声を掛けた。
霧野は俺から離れても、俯いてこっちを見なかった。



「その……えっと……コンビニ、どうしても行きたい?」

「……別に、」

 コンビニはそもそも俺が言い出したことだった。

「明日の朝飯ないけど、明日考えるんでもいい? 俺――」



 アクシデントを経てなお、俺の欲望の塊は、元気に上を向いていた。

「霧野が買い物したいなら、俺……ここで待ってるわ」



 それには霧野も気がついているはずだった。
霧野は首を横に振って、小さい声で、

「行かなくていい」

と言った。


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