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第39章 熱



「下の名前、やだ、」

「何で?」



 ……こんな、真っ只中にする会話じゃないと思うけど……。

「……美しくもないし、愛らしくもないから……」

 相馬が顔を上げる。
至近距離で目が合う。
恥ずかしい。



「それ、俺に言って通じると思ってる?」

「……可愛くないって言ったの、相馬じゃん」

 正確には、可愛げない、だけど。



 ああ、でも、それに関してはさっき解消したのに。
まだ引きずっていては、相馬も嫌な気分になってしまう。

「ごめんなさい、」



「ごめん。そうだよな」

 相馬がそっと私の頬を撫でる。

「ずっと気にしてたんだもんな」



 ……気にするよ、そりゃ。

 純粋に、憧れていた。
格好いいと思っていた。
別にどうこうなろうと思っていたわけではないけれど、少なくともこの気持ちを、自分で否定する必要はなかった。
嫌いだと言い聞かせる必要は、なかった。

あの日までは。


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