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第9章 同意



 会社にいるときの顔は仮面で、実は遊び慣れているのかと最初は思った。だとしたら、あんなにキツくもなかっただろうし、好きでもない男と一晩過ごしたって、きっと泣くようなことではなかっただろう。
もしかしたら彼女も俺のことが好きなのかと、浮かれたのも束の間だった。だったら余計に泣く必要はない。

 わからない。

彼女の心が結局わからないまま、けれどやることだけやってしまった。
どこまではよくて、どこからが駄目だったのか、よく確かめもしないまま。



 でも……でも、ほとんど俺は悪くないと、保身かどうか、俺は今でも思ってしまうけれど。

 勝手に泣いてんじゃねえよ。お前が始めたんだろ。



「……明日、話そう。まだ俺と話してくれるなら、だけど」

「ごめんなさい」

 そこは、わかった、とだけ言ってほしかった。

 謝らせるほど罪悪感が募る。
彼女を泣かせた自分にも、それでも自分が悪いとはどうしても思えない自分にも。



「おやすみ。何かあったら起こしてくれていいから」

 俺は適当にバスタオルと毛布を持ってきて、部屋の明かりを常夜灯にして、部屋の隅に転がった。
カーペットとはいえ床は固かった。
明日は土曜日だ。台風だと思っていたから予定も入れていない。
寝足りなかったら、明日昼寝をすればいいだけだ。



 そういえば、いつの間にか嵐の音が少しだけ大人しくなっている気がした。


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