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幻影の胡蝶 〜桃源郷の寵妃達〜
第2章 桃源郷は地獄だった…※
朱雀はそう言うと、桔梗を抱き上げて神殿の奥に入って行った。







きっとその奥にあるのは寝室なのだろう。

そんな2人を胡蝶は呆然と見ていた。







別人だと分かっているのに。

それでもあの顔と声で、他の女人と絡むその姿を見て。

胡蝶は再び足から崩れ落ちた。






「…っはっ!……ふぅぅっ…。」

我慢していた涙と嗚咽が思わず漏れた。

朱雀に渡された蘇りの玉を握って胸に当てた。






こんな…こんな光景を見なければいけないなら。

「…あっ…あああああっ……!!」

胡蝶は発狂した様に声を大にしてその場に崩れ落ちた。






ここは桃源郷なんかでは無く地獄だ。







愛した男が自分では無く他の女人を愛おしそうに愛でている。

ここにいる限りその光景を何度も見なくてはいけないのだろうか。






愛おしそうに伺うその目も。

優しく抱きしめるその腕も。







全部全部自分が求めたモノだった。






「ああっ!……はっ……はぁ…はぁ…。」

叫び続けた声が枯れるのが分かる。

息を吸いたいのか吐きたいのかも分からない自分の呼吸に苦しくて無様に顔を歪めた。






気が済んだだろうか、朱雀の主君よ。





胡蝶は蘇りの玉をキツく拳の中に収めて握った。

彼が何を思い、自分にこんな仕打ちをしたのかなんて、考えるまでも無かった。

『胡蝶』の名前を借りた胡蝶に、彼はさぞかし苛立っただろう。






女人の為だけに存在する桃源郷。

ここはそんな甘い場所では無かった。





ここでは、愛してやまない男の顔が。

自分を心底憎んでいる。






「はっ!…ははっ…。」

乾いた笑みが口から漏れると、胡蝶は目を見開いて天を仰いだ。











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