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天狐あやかし秘譚
第79章 義勇任侠(ぎゆうにんきょう)
☆☆☆
カダマシを中心に爆発した力の奔流は、周囲にいる陰陽師を吹き飛ばしていった。何人かは力の解放に伴う衝撃だけで気を失い、戦闘不能になっていった。

最も身近でその姿を見ていたダリは、咄嗟に展開した結界で己を守ったことから、さほどのダメージを受けなかったが、それでも無傷というわけにはいかなかった。

ー何が、起きたのだ?

どうやら、カダマシが持つ神宝・生玉の力が更に解放されたことだけはわかった。ここまで戦ってきて、ダリにはカダマシの力の様相が大体想像がついていた。

ーあやつの力は段階的に解き放たれる
 一段目、二段目は力が増す、三段目は大きさや速さが更に爆発的に増す。
 そのどれよりも強い力であるところを見ると、これは四段目、といったところか?

オレンジ色に輝く光の中、カダマシの身体が縮んでいき、最終的には『童子』のそれと同じ程度に、いや、それ以上に縮んだ。体格だけからいえば、少し大柄なプロレスラーくらいといったところであった。

ただ、そこから放たれた威圧感は、ダリの読み通り、並のものではなかった。ゆっくりとカダマシが立ち上がる。ダリは手にした槍をぎゅっと握りしめ、油断なくカダマシを見つめていた。

不意に、カダマシの右手が動いた。
その動きは最初、緩徐なものと感じられたが、ある一点で急に手先がブレたように空間に滲む。

その刹那。

ゴン!と、ダリの背後、黄泉平坂の方で爆音が響いた。つつっとダリの頬に切創が走り、赤い血が滲む。

ー今のは?

自分の身体の横を掠めたのが、猛烈な速さの拳撃であることに、遅ればせながらダリは気がついた。そして、その拳撃の威力はまともに当たれば、自分の背後に展開されている七星辰クラスの結界を軽々と破り、千引の大岩を粉砕するほどのものであることに、思い至る。

ーなるほど・・・『タケミカヅチ』・・・戦の神の名を冠するだけのことはある。
 だが・・・。
光に包まれたカダマシの身体は、そのあちこちから崩落が始まっているのが見て取れた。上腕が、頬が、太ももが、光の中でボロボロと朽ち果てるように削れていっている様子が見える。

ーあの身体は長く保てない・・・おそらく長くとも一から二分といったところか
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