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天狐あやかし秘譚
第80章 絶体絶命(ぜったいぜつめい)

「まずいぞ!」
左前が慌てて宙空の鵺を追いかける。あのまま土御門がクチナワによって邪魔されれば、ヤギョウが死返玉の適合者である可能性のある片霧麻衣と死返玉を携えた状態で黄泉平坂に入ってしまう。そうなれば、黄泉路は完全に開き、亡者たちが溢れかえってしまう。
「土門さん!九条!妖怪を頼む!俺はあいつを落とす!」
左前が自身の武器であるところの古代の銅鏡のような形態をした『水天鏡』を己の正面に構えた。
「左前さん!」
九条がその補佐に回るために背中合わせに立ち、金鞭を振るった。土門は逃げ回りながら夜魂蝶を召喚し、妖怪たちを撹乱している。
左前の口から重々しい調子で呪言が紡がれていき、それに応えるように水天鏡に莫大な霊力が蓄積されていく。
「太上老君 太上丈人
三師君夫人 門下典者 神省を垂れよ
春三月寅卯辰の呪を祓え 東方九夷甲乙君
夏三月巳午未の呪を祓え 南方八蛮丙丁君
秋三月申酉戌の呪を祓え 西方六戒庚辛君
冬三月亥子丑の呪を祓え 北方五狄壬癸君
四季月の呪を祓え 中央三秦戊己君
二十八星宿 星宿真君
三天遐邈(さんてんかばく) 正気悠遠 鬼官滅没
泰山府君の命なり 急ぎ急ぎて命に従い行為せよ・・・』
宙空を飛翔する鵺に狙いを定める。水天鏡が薄青く輝き、高い振動数で震え出す。その振動により発生した耳を突く金属音がじんわりとあたりにこだましていった。
そして、極限まで鏡に込められた呪力が、術者である左前の最後の言葉で一気に解き放たれる。
「黒海 滅法解呪詛章瀑!(こっかい めっぽうかいじゅそしょうばく)」
ゴウ、と大気を震わせる音とともに退魔の爆流が黄泉平坂を目指して上空を飛行している『鵺』めがけて迸る。しかし、『鵺』もまた、背後で膨らむ膨大な霊力を察知し、素早く回避行動を取る。
「うお!なんだ!」
鵺のようには危機を察知していなかったクチナワが、突然、奇妙な旋回行動を起こし始めた鵺の背で慌てふためき、身を低くしてしがみつく。左前は水天鏡を微細に操作し、水流を鵺に当てようと努めるが、鵺の旋回性能もなかなかのものであり、ヒットするには至らない。
「なんぞ!無駄に高性能な!」
左前が慌てて宙空の鵺を追いかける。あのまま土御門がクチナワによって邪魔されれば、ヤギョウが死返玉の適合者である可能性のある片霧麻衣と死返玉を携えた状態で黄泉平坂に入ってしまう。そうなれば、黄泉路は完全に開き、亡者たちが溢れかえってしまう。
「土門さん!九条!妖怪を頼む!俺はあいつを落とす!」
左前が自身の武器であるところの古代の銅鏡のような形態をした『水天鏡』を己の正面に構えた。
「左前さん!」
九条がその補佐に回るために背中合わせに立ち、金鞭を振るった。土門は逃げ回りながら夜魂蝶を召喚し、妖怪たちを撹乱している。
左前の口から重々しい調子で呪言が紡がれていき、それに応えるように水天鏡に莫大な霊力が蓄積されていく。
「太上老君 太上丈人
三師君夫人 門下典者 神省を垂れよ
春三月寅卯辰の呪を祓え 東方九夷甲乙君
夏三月巳午未の呪を祓え 南方八蛮丙丁君
秋三月申酉戌の呪を祓え 西方六戒庚辛君
冬三月亥子丑の呪を祓え 北方五狄壬癸君
四季月の呪を祓え 中央三秦戊己君
二十八星宿 星宿真君
三天遐邈(さんてんかばく) 正気悠遠 鬼官滅没
泰山府君の命なり 急ぎ急ぎて命に従い行為せよ・・・』
宙空を飛翔する鵺に狙いを定める。水天鏡が薄青く輝き、高い振動数で震え出す。その振動により発生した耳を突く金属音がじんわりとあたりにこだましていった。
そして、極限まで鏡に込められた呪力が、術者である左前の最後の言葉で一気に解き放たれる。
「黒海 滅法解呪詛章瀑!(こっかい めっぽうかいじゅそしょうばく)」
ゴウ、と大気を震わせる音とともに退魔の爆流が黄泉平坂を目指して上空を飛行している『鵺』めがけて迸る。しかし、『鵺』もまた、背後で膨らむ膨大な霊力を察知し、素早く回避行動を取る。
「うお!なんだ!」
鵺のようには危機を察知していなかったクチナワが、突然、奇妙な旋回行動を起こし始めた鵺の背で慌てふためき、身を低くしてしがみつく。左前は水天鏡を微細に操作し、水流を鵺に当てようと努めるが、鵺の旋回性能もなかなかのものであり、ヒットするには至らない。
「なんぞ!無駄に高性能な!」

