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天狐あやかし秘譚
第8章 針小棒大(しんしょうぼうだい)
「拙者、生国は淡路の国、名を芝三郎と申す化け狸でござる。故あって父母の元を離れ、流れ流れて東の国に参り候。さまようこと幾星霜、法力坊主に封じ込められ、長きに渡り身動き取れず、この度、やっとのことで解放され、やれ自由の身じゃと喜んだのもつかの間、面妖なる装束の人々、あやしき家々に取り囲まれ途方に暮れたるところに、ああ懐かしきあやかしの気配。そのあやかしを使役しておる綾音殿を強者と見込み、ついぞ化け狸の血が滾りて、化け比べを挑んだものの、完膚なきまでに拙者の負けでござれば、ああ!何卒、何卒、命ばかりは・・・おーたーすーけーあーれー!!!!」
芝三郎と名乗った化け狸は、ゴン!と床に頭を擦り付けんばかりの土下座を何度も行った。

状況がよく飲み込めないが、要は、さっきの大きな和食の店も、奇妙でエッチな侍の生首も、下半身蜘蛛の妖怪も、のっぺらぼうも、顔だけの般若も、大鬼も、あの妖怪は全部こいつの仕業だということだけはわかった。
なんか・・・腹立ってきた。本当に、本当に、びっくりしたんだから!!!

「あんた・・・一体何の恨みで!!!」
私が凄むと、芝三郎は心底怯えたような顔をする。

「ひいい!!申し訳ござらん。化け比べは狸の本懐、人をたぶらかすことは狸や狐の本能でござる。それが証拠に、お連れの狐殿も・・・」

え?あ!そういやダリ・・・鬼の足に踏み潰されたと思ったけど?
後ろを振り向くと、ダリが清香ちゃんを起こしてパンパンと身体についたホコリを払ってやっているところだった。当然、口元に血がついていることもない。

まさか・・・?
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