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天狐あやかし秘譚
第82章 悲壮淋漓(ひそうりんり)

「いただくぞ?」
私の胸にゆっくりと腕を伸ばしてくる。その腕が私の身体に到達すれば、そのまま胸の中に手が入り込み、心臓を丸ごと奪われる・・・そのあり得ないビジョンがありありと脳裏に浮かぶ。しかし、私は全く動くことができない。声を出すことすらできない。
も・・・もうダメ!
見開かれた目が涙で滲んだ。
やっぱりダリを待てばよかった。私が誰かを救おうなんて、そんなの、やっぱり無理だったんだ。
黄泉は開かれ、最悪の邪神は蘇り、麻衣ちゃんは取り込まれてしまった。
ダリ・・・ごめんなさい。
私、私もう・・・
その時、私の脳裏によぎったのは、ダリの悲しそうな表情だった。
「ダリ・・・」
私の口から漏れた、聞こえるか聞こえないかくらいのかすれた声をイザナミが耳ざとく捉えた。
「ほう・・・それは愛しい者の名、か?」
そして、にやりと笑った。
凄絶とは、こういう表情を言うのだろう。
限りなく冷酷で、淫靡で、そして、悲しい表情だと、私は思った。
耐えきれず、ぎゅっと目をつむる。
ぬるりと、奇妙な感覚が私の胸から中に入り込んできた。冷たい、黄泉の気配。
それは私の心臓にふれると、一息にそれを、
ぐしゃり
と握りつぶした。
私の胸にゆっくりと腕を伸ばしてくる。その腕が私の身体に到達すれば、そのまま胸の中に手が入り込み、心臓を丸ごと奪われる・・・そのあり得ないビジョンがありありと脳裏に浮かぶ。しかし、私は全く動くことができない。声を出すことすらできない。
も・・・もうダメ!
見開かれた目が涙で滲んだ。
やっぱりダリを待てばよかった。私が誰かを救おうなんて、そんなの、やっぱり無理だったんだ。
黄泉は開かれ、最悪の邪神は蘇り、麻衣ちゃんは取り込まれてしまった。
ダリ・・・ごめんなさい。
私、私もう・・・
その時、私の脳裏によぎったのは、ダリの悲しそうな表情だった。
「ダリ・・・」
私の口から漏れた、聞こえるか聞こえないかくらいのかすれた声をイザナミが耳ざとく捉えた。
「ほう・・・それは愛しい者の名、か?」
そして、にやりと笑った。
凄絶とは、こういう表情を言うのだろう。
限りなく冷酷で、淫靡で、そして、悲しい表情だと、私は思った。
耐えきれず、ぎゅっと目をつむる。
ぬるりと、奇妙な感覚が私の胸から中に入り込んできた。冷たい、黄泉の気配。
それは私の心臓にふれると、一息にそれを、
ぐしゃり
と握りつぶした。

