この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
天狐あやかし秘譚
第86章 能鷹隠爪(のうよういんそう)

銃は効かないと悟ったマーカスは、手元に用意した愛用のナイフを鞘から引き抜いた。独特の湾曲した形状、鈍い光を放つそれはククリナイフと呼ばれるものだった。ただ、マーカスの持つナイフが通常と違うのは、その刃渡りだった。約1メートルほどはある。その分重量があり、破壊力は桁違いだった。
くるくるとククリナイフをヌンチャクよろしく振り回す。遠心力を蓄え、最強の一撃を繰り出すためだ。その動きには隙がなく、ヴァルキリーも攻めあぐねているのか、やや距離を取り、油断なく男の挙動に目を配っていた。
ヒュンヒュンヒュン・・・
刃が風を切る音が、夜の静かな海に不気味に響く。
沖からの風が、ひとつ、過ぎた。
マーカスとヴァルキリーの双方が、まるで呼吸を合わせたかのように同時に甲板を蹴る。一気に距離が縮まっていく。マーカスが肩越しにククリナイフを振り下ろすのをヴァルキリーが紙一重で見切り、最小限の動きで躱す。
があぁっ!!
ヴァルキリーがその身体の傍らをすり抜けるように通り過ぎると、マーカスがのけぞって倒れた。その胸にはエックス字型の爪痕が痛々しく残る。
「黒猫の爪斬撃(スヴィブル・ネイル)・・・」
両の手の先から血を滴らせた黒猫が、舳先に【レディ】を追い詰めていく。彼女は慌てて携帯を取り出そうとした。
「無駄よ。下のお仲間は、すでにみんなおねんねよ」
「ば・・・お前、何者だ!お・・・陰陽寮の者か!
そ、そうだ・・・鴻上、鴻上はどうした!?」
すうっと、ヴァルキリーが右手を上げる。人差し指を伸ばし、その爪先を【レディ】の眉間に合わせた。
「罪もなき乙女の純潔を犯し、私腹を肥やそうとするその罪・・・許しがたし!
その闇、綺羅羅黒猫戦乙女(ブラックキャット・ヴァルキリー)が、打ち祓う!!」
「な・・・」
【レディ】は何かを言おうとしたのかもしれない。しかし、それよりも疾く、ヴァルキリーの拳がその腹を撃ち抜いた。そのままドサリと、彼女は白目をむいて倒れていった。
「あとは・・・」
ヴァルキリーはキッと後部甲板に目をやる。そこにある操舵室を押さえれば、出港を止めることができるはずだ。
ー待っててね、必ず助けるから・・・
コンテナの中の女性たち。特に坂本愛理に心の中で語りかけると、ヴァルキリーは、最後の力を振り絞り、船を止めるべく、闇夜を駆け抜けていった。
くるくるとククリナイフをヌンチャクよろしく振り回す。遠心力を蓄え、最強の一撃を繰り出すためだ。その動きには隙がなく、ヴァルキリーも攻めあぐねているのか、やや距離を取り、油断なく男の挙動に目を配っていた。
ヒュンヒュンヒュン・・・
刃が風を切る音が、夜の静かな海に不気味に響く。
沖からの風が、ひとつ、過ぎた。
マーカスとヴァルキリーの双方が、まるで呼吸を合わせたかのように同時に甲板を蹴る。一気に距離が縮まっていく。マーカスが肩越しにククリナイフを振り下ろすのをヴァルキリーが紙一重で見切り、最小限の動きで躱す。
があぁっ!!
ヴァルキリーがその身体の傍らをすり抜けるように通り過ぎると、マーカスがのけぞって倒れた。その胸にはエックス字型の爪痕が痛々しく残る。
「黒猫の爪斬撃(スヴィブル・ネイル)・・・」
両の手の先から血を滴らせた黒猫が、舳先に【レディ】を追い詰めていく。彼女は慌てて携帯を取り出そうとした。
「無駄よ。下のお仲間は、すでにみんなおねんねよ」
「ば・・・お前、何者だ!お・・・陰陽寮の者か!
そ、そうだ・・・鴻上、鴻上はどうした!?」
すうっと、ヴァルキリーが右手を上げる。人差し指を伸ばし、その爪先を【レディ】の眉間に合わせた。
「罪もなき乙女の純潔を犯し、私腹を肥やそうとするその罪・・・許しがたし!
その闇、綺羅羅黒猫戦乙女(ブラックキャット・ヴァルキリー)が、打ち祓う!!」
「な・・・」
【レディ】は何かを言おうとしたのかもしれない。しかし、それよりも疾く、ヴァルキリーの拳がその腹を撃ち抜いた。そのままドサリと、彼女は白目をむいて倒れていった。
「あとは・・・」
ヴァルキリーはキッと後部甲板に目をやる。そこにある操舵室を押さえれば、出港を止めることができるはずだ。
ー待っててね、必ず助けるから・・・
コンテナの中の女性たち。特に坂本愛理に心の中で語りかけると、ヴァルキリーは、最後の力を振り絞り、船を止めるべく、闇夜を駆け抜けていった。

