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天狐あやかし秘譚
第11章 【第4話 女怪】福善禍淫(ふくぜんかいん)
ぼんやりと空を流れる雲を見る。がたたんがたたんと、電車の走る音が聞こえる。ああ、線路が近いんだな、ここ。

午後はこれまで行っていないターミナル駅周辺の不動産屋を当たってみようか。それから、帰りに就職情報誌を買ってみよう。とにかく、養う人が増えてしまった。なんとかしないと。

「まま・・・」
清香ちゃんが私の服の裾を引く。
ごめんね、ちょっとまっててね。今考えごと中。

そもそも、この調子で食費がかかると、家賃込みでいったいいくら稼ぐ必要があるんだろう?
むむむむ・・・。アルバイト掛け持ちとかでも月手取りで25万程度・・・。家賃に10万円・・・いや、15万?生活費は10万で果たして足りるか?

「ねえ・・・まま!」
光熱水費として1万5千、ネット代で1万程度か?いや、ここはもっと削れるか?やはり大事なのは食費・・・。月7−8万は見るべきか・・・教育費はかからないとすると・・・。

「まま!・・・たいへん!」
「おい!清香どの!」
え?何?

いけない、生活のことを考えて、ぼんやりしていた。何度か清香ちゃんが呼んでいた気がする。見ると、清香ちゃんが公園から走り出していくところが見えた。その後ろを芝三郎が追いかける。

危ない!

もし、道路に飛び出して轢かれたりしたら!
私も慌てて飛び出した。ダリもあとから付いてくる。

清香ちゃんは公園を出て、すぐそこにある高架橋に走っていた。
「待って!ダメ!!!」
何か叫んでいる。
どうしたの!?一体?

思った瞬間、少し後ろを走っていたダリがぐんと速度を上げた。
「綾音・・・人が、落ちている」
言い残すと、旋風を伴ってダリが消えた。その風に煽られ、私は思わず足を止めてしまう。何?何?

「ぱぱ!」
「ダリ殿!」
清香ちゃんと芝三郎の声がする。右手にかかっている橋の中ほどから聞こえているようだ。息を切らしつつやっとのことで到着すると、ダリが一人の女性を抱えているのが目に入る。

ろくに手入れされていない髪に化粧気のない顔をしているその女性は、どうやら意識がないようだ。ダリの腕の中でぐったりとしている。
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