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天狐あやかし秘譚
第98章 大信不約(たいしんふやく)
☆☆☆
「一体、どういうことなのよ!」

綿貫亭に戻ると、私は再び佐那を問い詰めた。とにかく先程の魑魅や母と私の『体質』などについて説明をしてほしかった。
時刻は夜の11時を回っており、明日は母を東京見物に連れ出す約束をしてしまったので、私とて早く寝たい。しかし、この現状をそのままにしておくことなどできなかった。

ダイニングテーブルに身を乗り出さんばかりにしている私から距離を取ろうと、向かいに座っていた佐那がのけぞり気味になる。

「あ・・・綾音様・・・落ち着いて。順を追って説明しますので・・・」

佐那が語り始めた。

「綾音様たちの一族は、代々その女子(おなご)のみに特別な『質』が宿るのです。その力はそのままにしておくと、周囲の魑魅魍魎を引き付けてしまう・・・なので、わたくしが守り狐・・・『後神(うしろがみ)』として取り憑き、皆様方の力を抑えたり、集まってきた厭魅を打ち祓っていたのでございます」

え?ということは・・・佐那がお母さんや私を守っていた・・・?

「しかし、朱音殿の力はなかなかに強く、全ての魑魅魍魎を追い払うことは出来難く、結果として、お家にあるいくつかの電気(エレキ)にて動くものに徒(あだ)なす事になってしまったのですが・・・これは、ひとえにわたくしの修行の足りなさ故でございます」

マジか・・・。母の電子機器との相性の悪さは、霊障だったというのか・・・

「それでも、大きな災いもなく、わたくしは朱音殿とその家族を守り続けていたのです。そんな時、綾音様が家を出ると言い出したので、私はすっかり困ってしまったのです」

佐那が言うには、当時、すでに私にもその『質』が顕れ始めていたそうだ。同じ家に住んでいてくれれば同時に守ることは出来るが、私は姉や弟に劣等感を抱いていたものだから、『一人でなんとかする!』という思いで、東京に出ることを選んでしまったのだ。佐那の力では北九州と東京にいるふたりの人間を守ることはできない。

そこで、彼女は苦渋の選択をしたのだ。

「わたくしは、朱音殿をお守りすることにしたのです。それは、朱音殿の力の方が当時、強かったからでございます。そして、もう一つのわけは、わたくしの妖力の補い方にございます」

ん?・・・当時母の方が力が強かったから、優先した、というのは分かるが『妖力の補い方』とは?
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