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天狐あやかし秘譚
第99章 焦眉之急(しゅうびのきゅう)
☆☆☆
ダーン!

オーケストラ楽器が息を合わせたかのように一斉に鳴り響き、コンサートの幕開けを告げる。繊細で優雅な旋律が引き続き、会場の人々はその音色に魅了されていった。

私の隣りに座っている母もまた、目を輝かせてその様子に見入っていた。
少し薄暗いホール。本来、演奏中の出入りは禁止されているが・・・

『綾音様・・・出られます』
佐那が簡単な幻術を用いてくれる。
これで、少なくとも母にだけは私が隣りに座っているように見えるし、休憩中も付き従って適当な相槌を打っているように感じるのだそうだ。

そっと席を立つ。横の人には申し訳ないが前を横切らせてもらう。これも、隣の人には私の存在は『感知されていない』のだそうだ。昨日、ダリが母にかけてくれたのと同じような種類の幻術・・・存在を感知されにくくなるそれである。

『佐那・・・術を使っても平気なの?』
当然、術には妖力を消費する。そして、その妖力が底を尽きかけていると言っていたが・・・。
『はい!昨晩、ダリ様に抱きついて口づけした時、ほんの少しですが妖力を・・・』
『わ、分かった!分かったから!!』

やっぱり、ダリとのなんとかかんとかで妖力を補充と言われると・・・どうしても、こう・・・

『綾音様、ヤキモチ焼かなくても・・・』
『いちいち心読まないでよ!』

そう、取り憑かれているときというのは、こちらの思いがかなりダイレクトに佐那に伝わってしまっているようなのだ。まさに一心同体。私が感じていること、考えていることなどはほぼ筒抜けと言ってもいい。

『はあ・・・申し訳ない・・・』
またしても、お腹の中の佐那がシュンとしおれたようになる。
うう・・・私だって申し訳ないとは思うんだけど、どうしてもこの気持ちは止められなくて・・・。

コンサート会場を出て、再び私たちは街に繰り出していた。午後の渋谷は日が傾き始めており、柔らかな日差しが街をやさしく包んでいた。

『あの・・・綾音様・・・もし、心に引っかかりがあるようでしたら・・・その・・・眠っていていただければわたくしがなんとでもいたしますが・・・』

それって、私が寝ている間に適当な男と『寝る』ってことでしょう!?
そ・・・それもちょっと抵抗がある。

『だ、大丈夫・・・』
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