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天狐あやかし秘譚
第99章 焦眉之急(しゅうびのきゅう)
今日は梅雨には珍しくいい天気だ。
空はいつの間にか茜色から濃紺に染まり、街が夜色に染まっていく。空に一等星が光り始めていた。
代々木八幡に行くには、公園を抜けていくのが一番の近道だ。暗くなりきる前に、と足早に公園に入っていったが、すぐに暗くなってしまう。都会の真ん中とは言え、特にイベントもない夕暮れの代々木公園は人通りが少なく、暗くなるとやっぱりなんとなく心細かった。
やっぱり表通りを通るべきだったかな・・・
そんなふうに考えるけど、今更そちらに向かうほうが遠回りになってしまって、更に暗くなると思ったので、私は予定通りの道を進むことにした。
いつの間にか日が暮れ、点々とある街灯が白銀の光で道を照らし始める。公園の細道を私は顔を上げないで歩いていた。
ガサガサっ・・・
後ろでなにか音がした。ビクッとして一瞬立ち止まりそうになる。
野良犬?
最初に思ったのはそれだった。雰囲気的に人ではない、そう思ったのだ。でも、だとしたら立ち止まって襲われたらかなわない。早めに通り過ぎるのがいい。
そう考えて、足を早めようとした時、突然、風に乗ってなんとも言えない匂いが漂ってきた。なんだろう・・・饐えたような、生臭いような・・・汚物と動物の臭気が混ざったような、そんな嫌な匂いだった。
なにコレ!?
たまらず鼻と口を手で覆う。ガサガサッとまた後ろで音がした。
ここに来て私はやっと気がつく。
なにか、尋常ではないものが私の後ろにいる!
弾かれるように走り出した。心の中に恐怖の感情が渦巻く。人じゃない、犬とかそんなものではない、もっと、もっと違うナニか・・・それが私の背後にいて、明確に自分を狙っている。そう思えてならなかった。
何・・・何!?
そして同時に私の脳裏になにかひらめくものがあった。
フラッシュのようにいくつかの場面が静止画となって脳内に再生される。
暗い森
走る母に手を引かれている私
枝が跳ねて私の額に当たって
私が転んで
そして・・・そして・・・
母が・・・母が!
ずるずると森の中に引きずり込まれて・・・
悲鳴、嗚咽・・・そして、懇願・・・
『お願い・・・娘だけは!・・・涼華だけは!』
フシュウウウウ・・・
空はいつの間にか茜色から濃紺に染まり、街が夜色に染まっていく。空に一等星が光り始めていた。
代々木八幡に行くには、公園を抜けていくのが一番の近道だ。暗くなりきる前に、と足早に公園に入っていったが、すぐに暗くなってしまう。都会の真ん中とは言え、特にイベントもない夕暮れの代々木公園は人通りが少なく、暗くなるとやっぱりなんとなく心細かった。
やっぱり表通りを通るべきだったかな・・・
そんなふうに考えるけど、今更そちらに向かうほうが遠回りになってしまって、更に暗くなると思ったので、私は予定通りの道を進むことにした。
いつの間にか日が暮れ、点々とある街灯が白銀の光で道を照らし始める。公園の細道を私は顔を上げないで歩いていた。
ガサガサっ・・・
後ろでなにか音がした。ビクッとして一瞬立ち止まりそうになる。
野良犬?
最初に思ったのはそれだった。雰囲気的に人ではない、そう思ったのだ。でも、だとしたら立ち止まって襲われたらかなわない。早めに通り過ぎるのがいい。
そう考えて、足を早めようとした時、突然、風に乗ってなんとも言えない匂いが漂ってきた。なんだろう・・・饐えたような、生臭いような・・・汚物と動物の臭気が混ざったような、そんな嫌な匂いだった。
なにコレ!?
たまらず鼻と口を手で覆う。ガサガサッとまた後ろで音がした。
ここに来て私はやっと気がつく。
なにか、尋常ではないものが私の後ろにいる!
弾かれるように走り出した。心の中に恐怖の感情が渦巻く。人じゃない、犬とかそんなものではない、もっと、もっと違うナニか・・・それが私の背後にいて、明確に自分を狙っている。そう思えてならなかった。
何・・・何!?
そして同時に私の脳裏になにかひらめくものがあった。
フラッシュのようにいくつかの場面が静止画となって脳内に再生される。
暗い森
走る母に手を引かれている私
枝が跳ねて私の額に当たって
私が転んで
そして・・・そして・・・
母が・・・母が!
ずるずると森の中に引きずり込まれて・・・
悲鳴、嗚咽・・・そして、懇願・・・
『お願い・・・娘だけは!・・・涼華だけは!』
フシュウウウウ・・・

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