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天狐あやかし秘譚
第101章 純粋一途(じゅんすいいちず)
「あな・・・珍し・・・狐の子か?」
ぼんやりしていると、突然、後ろから声をかけられた。たおやかな女性の声だった。人の言葉だというのに、何故か私はその意味するところが理解できることに驚いた。
本当なら、逃げなくてはいけないのだろうが、その時の私はなぜか、この人は大丈夫と思っていた。今となっては顔もよく覚えていないが、とても優しそうな人だったのは間違いない。
その女性は私を抱き上げると、何事かを語った。それは歌のようでもあり、物語のようでもあり、話し声のようでもあった。何を言われたかよくは覚えていない。そして、それから長い時間、私はその女性とそこで過ごした気がした。
5年?それとも10年?・・・もしかしたら100年だったかもしれない。
ある時、女性は言った。
「帰りたい?子狐よ」
私は他の兄弟が少し心配になっていた。みな、ここに来れば食うに困らない。だけど、他の兄弟を連れていきたいと言った時、女性は悲しそうな顔をしたようだった。
済まない・・・と、その女性は言った。
それが、その淵での私の最後の記憶だった。
気がつくと、私は森の中を彷徨っていた。天を見ると、すっかり日が暮れていた。あの水のお陰で腹は減っていないし、不思議と、いろいろなことを理解できるようになっていた。
なんだろう・・・奇妙な感じだ。
身体も大きくなっているような気がした。そして、お腹の底に、なにか説明できないような力を感じてもいた。
その時、ガサリと目の前の藪が揺れ、狼が現れた。
狼は子狐を喰う。それが判った。
逃げる・・・?
何故だろう。すぐに逃げるということをしなくてもいいと思った。狼は先刻までの私のように腹を空かせている様子だった。よく見ると、肋(あばら)が浮いており、よだれをひっきりなしに流している。その目は久々の獲物を前に狂喜の色をにじませていた。
ぐるるるうぅ・・・
一声唸ると、そいつは私に躍りかかってくる。しかし、そんな光景を、私はまるで別の世界で起こっているかのように冷静に眺めていた。その時にどうすればいいのか、何故か判っていたからだ。
ぼんやりしていると、突然、後ろから声をかけられた。たおやかな女性の声だった。人の言葉だというのに、何故か私はその意味するところが理解できることに驚いた。
本当なら、逃げなくてはいけないのだろうが、その時の私はなぜか、この人は大丈夫と思っていた。今となっては顔もよく覚えていないが、とても優しそうな人だったのは間違いない。
その女性は私を抱き上げると、何事かを語った。それは歌のようでもあり、物語のようでもあり、話し声のようでもあった。何を言われたかよくは覚えていない。そして、それから長い時間、私はその女性とそこで過ごした気がした。
5年?それとも10年?・・・もしかしたら100年だったかもしれない。
ある時、女性は言った。
「帰りたい?子狐よ」
私は他の兄弟が少し心配になっていた。みな、ここに来れば食うに困らない。だけど、他の兄弟を連れていきたいと言った時、女性は悲しそうな顔をしたようだった。
済まない・・・と、その女性は言った。
それが、その淵での私の最後の記憶だった。
気がつくと、私は森の中を彷徨っていた。天を見ると、すっかり日が暮れていた。あの水のお陰で腹は減っていないし、不思議と、いろいろなことを理解できるようになっていた。
なんだろう・・・奇妙な感じだ。
身体も大きくなっているような気がした。そして、お腹の底に、なにか説明できないような力を感じてもいた。
その時、ガサリと目の前の藪が揺れ、狼が現れた。
狼は子狐を喰う。それが判った。
逃げる・・・?
何故だろう。すぐに逃げるということをしなくてもいいと思った。狼は先刻までの私のように腹を空かせている様子だった。よく見ると、肋(あばら)が浮いており、よだれをひっきりなしに流している。その目は久々の獲物を前に狂喜の色をにじませていた。
ぐるるるうぅ・・・
一声唸ると、そいつは私に躍りかかってくる。しかし、そんな光景を、私はまるで別の世界で起こっているかのように冷静に眺めていた。その時にどうすればいいのか、何故か判っていたからだ。

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