この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
天狐あやかし秘譚
第101章 純粋一途(じゅんすいいちず)
☆☆☆
私は、みなし子だった。
とはいえ、狐の子だ。母が何らかの形で死ぬことなど、よくあることだった。通常、自力で餌を取れない子は死ぬしかない。それが、自然の掟だった。
4匹いた兄弟たちは櫛の歯が抜け落ちるように離れ離れになり、あっという間に私は一人になった。ひとりになって、腹を空かせたまま森を彷徨い続けた。これから暖かくなるのか、寒くなるのかすらわからない。何が食えるもので、何が毒なのかもわからない。母がいないので、生きる術を誰からも教えてもらっていないからだった。
喉が・・・乾いた。
私は思った。鼻をひくつかせると、右の方から水の匂いがした。とにかく、水を飲みたい。その一心で私は山を進んでいた。幼い獣にとって、森はただただ危険な場所だ。頭上からは猛禽類が、地上には牙を持つ生き物が、そして、何より人間が恐ろしかった。
ガサガサガサ・・・
茂みを抜ける。
目の前に緑の木々に囲まれた淵があった。
水だ・・・。
水場には色々な生き物がやってくるので特に注意が必要だった。一度はそれで狼に追い立てられて死ぬ思いをしたものだ。
匂いを嗅ぐ。獣の匂いはしない。
頭上を見る。木の枝で覆われている。空から襲われる心配は・・・ない。
改めて見ると、そこは不思議な場所だった。しんとしている。虫の声も、鳥の声も、獣の声もしない。あるべき音がまったくない。匂いもない。
なんだろう・・・そう思ったが、私はとにかく喉が渇いていた。
そっと、淵に近づき、水をひと舐めした。
それは、これまで飲んだどんな水よりも甘く、美味だった。
体中に力が漲るような、毛のいっぽんいっぽんまでビリビリと痺れるような・・・そんな不思議な水。喉の渇きだけではなく、空腹も癒えていくかのようなその水を、気がつくと私は夢中で飲んでいた。
どれほど飲んでいただろうか。ふと、淵の中央に目をやった。
そこには、緑色に輝く、なにか不思議なものが立っていた。
それがあまりにも不可解なものだったので、私は時を忘れてぽかんとしてそれを見つめていた。それは、あたかも霞が星の光を帯びたようなモヤモヤとしたものを中心に、いくつもの光る石がくるくると回っている・・・そんなふうにしか表現できないものだった。今までこれに似たものを見たことなどなかった。
私は、みなし子だった。
とはいえ、狐の子だ。母が何らかの形で死ぬことなど、よくあることだった。通常、自力で餌を取れない子は死ぬしかない。それが、自然の掟だった。
4匹いた兄弟たちは櫛の歯が抜け落ちるように離れ離れになり、あっという間に私は一人になった。ひとりになって、腹を空かせたまま森を彷徨い続けた。これから暖かくなるのか、寒くなるのかすらわからない。何が食えるもので、何が毒なのかもわからない。母がいないので、生きる術を誰からも教えてもらっていないからだった。
喉が・・・乾いた。
私は思った。鼻をひくつかせると、右の方から水の匂いがした。とにかく、水を飲みたい。その一心で私は山を進んでいた。幼い獣にとって、森はただただ危険な場所だ。頭上からは猛禽類が、地上には牙を持つ生き物が、そして、何より人間が恐ろしかった。
ガサガサガサ・・・
茂みを抜ける。
目の前に緑の木々に囲まれた淵があった。
水だ・・・。
水場には色々な生き物がやってくるので特に注意が必要だった。一度はそれで狼に追い立てられて死ぬ思いをしたものだ。
匂いを嗅ぐ。獣の匂いはしない。
頭上を見る。木の枝で覆われている。空から襲われる心配は・・・ない。
改めて見ると、そこは不思議な場所だった。しんとしている。虫の声も、鳥の声も、獣の声もしない。あるべき音がまったくない。匂いもない。
なんだろう・・・そう思ったが、私はとにかく喉が渇いていた。
そっと、淵に近づき、水をひと舐めした。
それは、これまで飲んだどんな水よりも甘く、美味だった。
体中に力が漲るような、毛のいっぽんいっぽんまでビリビリと痺れるような・・・そんな不思議な水。喉の渇きだけではなく、空腹も癒えていくかのようなその水を、気がつくと私は夢中で飲んでいた。
どれほど飲んでいただろうか。ふと、淵の中央に目をやった。
そこには、緑色に輝く、なにか不思議なものが立っていた。
それがあまりにも不可解なものだったので、私は時を忘れてぽかんとしてそれを見つめていた。それは、あたかも霞が星の光を帯びたようなモヤモヤとしたものを中心に、いくつもの光る石がくるくると回っている・・・そんなふうにしか表現できないものだった。今までこれに似たものを見たことなどなかった。

作品検索
しおりをはさむ
姉妹サイトリンク 開く


