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天狐あやかし秘譚
第101章 純粋一途(じゅんすいいちず)
☆☆☆
私とダリ様の、そんな生活が続いていていた。
私たちは相変わらずその近辺見渡す限りの山々の主であり、土地の神だった。ずっと、ずっと私たちはふたりきりであったのだけど、ある時、私はふと気がついたのだ。
ダリ様がある人の子を見るときだけ、その瞳が大きく揺らぐのだ。初めは些細な違和感だった。しかし、それは次第に大きく、大きくなっていく。
そして、ある時、それは確信に変わった。
夜伽の時に、ダリ様がおっしゃった。
『佐那姫よ・・・我は、正室を迎えたい』
つまり、妻を娶りたいと言うのだ。
この時の自分の気持ちはどうだっただろう・・・。
自分でも不思議に思うのだが、人の世に言うところの『嫉み』のようなものは全くなかった。それはおそらく、ダリ様は私にとってあまりにも高みにいたからではないかと思っている。
その言葉に対して、私は素直に思っていた。
『ダリ様にツガイが・・・お好きな方ができて・・・良かった』
と。
ダリ様が愛されたその方は、名を『碧音様』といった。
ダリ様を祀る社の宮司の娘であり、彼女自身も巫女であった。
碧音様もダリ様を愛し、ふたりは比翼の鳥、連理の枝のごとく似合いの夫婦となった。この頃の人の世の習わしに従い、ダリ様は碧音様のもとに通われるようになった。私はその共をし、ダリ様と碧音様がまぐわうご寝室をお守りするのが常となったのだ。
幸せな日々が続く。
碧音様と夫婦になってから、ダリ様はとみにお顔が優しくなられた。今まで以上に神通力は漲り、その勢いは遥か西の都にも届くほどになっていた。
そして、そんなある夜のこと。それは、月のきれいな晩だった。
ダリ様が屋敷で月を眺めつつ、神酒を傾けながら私に言った。
『佐那姫よ・・・もしも我が碧音を守れなくなったならば、主は碧音を守ってくれるか?』
ダリ様が碧音様を守れなくなる事態など想像だにできませんが、もちろん、私の答えはひとつでした。
『もちろんでございます。ダリ様が愛するものはわたくしの愛するもの。その子々孫々に至るまで、この佐那姫、たとえこの生命尽き果てようともお守りいたします』
その答えを聞いて、ダリ様はいたく満足されたように、また杯を傾けたのだった。
その杯の酒に、そして、ダリ様の瞳に、月が美しくまあるく落ちていたのを今でもはっきりと覚えている。
私とダリ様の、そんな生活が続いていていた。
私たちは相変わらずその近辺見渡す限りの山々の主であり、土地の神だった。ずっと、ずっと私たちはふたりきりであったのだけど、ある時、私はふと気がついたのだ。
ダリ様がある人の子を見るときだけ、その瞳が大きく揺らぐのだ。初めは些細な違和感だった。しかし、それは次第に大きく、大きくなっていく。
そして、ある時、それは確信に変わった。
夜伽の時に、ダリ様がおっしゃった。
『佐那姫よ・・・我は、正室を迎えたい』
つまり、妻を娶りたいと言うのだ。
この時の自分の気持ちはどうだっただろう・・・。
自分でも不思議に思うのだが、人の世に言うところの『嫉み』のようなものは全くなかった。それはおそらく、ダリ様は私にとってあまりにも高みにいたからではないかと思っている。
その言葉に対して、私は素直に思っていた。
『ダリ様にツガイが・・・お好きな方ができて・・・良かった』
と。
ダリ様が愛されたその方は、名を『碧音様』といった。
ダリ様を祀る社の宮司の娘であり、彼女自身も巫女であった。
碧音様もダリ様を愛し、ふたりは比翼の鳥、連理の枝のごとく似合いの夫婦となった。この頃の人の世の習わしに従い、ダリ様は碧音様のもとに通われるようになった。私はその共をし、ダリ様と碧音様がまぐわうご寝室をお守りするのが常となったのだ。
幸せな日々が続く。
碧音様と夫婦になってから、ダリ様はとみにお顔が優しくなられた。今まで以上に神通力は漲り、その勢いは遥か西の都にも届くほどになっていた。
そして、そんなある夜のこと。それは、月のきれいな晩だった。
ダリ様が屋敷で月を眺めつつ、神酒を傾けながら私に言った。
『佐那姫よ・・・もしも我が碧音を守れなくなったならば、主は碧音を守ってくれるか?』
ダリ様が碧音様を守れなくなる事態など想像だにできませんが、もちろん、私の答えはひとつでした。
『もちろんでございます。ダリ様が愛するものはわたくしの愛するもの。その子々孫々に至るまで、この佐那姫、たとえこの生命尽き果てようともお守りいたします』
その答えを聞いて、ダリ様はいたく満足されたように、また杯を傾けたのだった。
その杯の酒に、そして、ダリ様の瞳に、月が美しくまあるく落ちていたのを今でもはっきりと覚えている。

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