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天狐あやかし秘譚
第105章 依々恋々(いいれんれん)
ぶんぶんぶん・・・頭を数回振って、私はそのいけない考えを頭から追い出す。
相変わらず鏡の中の紗倉は、私に『知りたいならやっちゃえ』みたいな視線を送ってきている気がする。そりゃ・・・知りたいは知りたいけど、そんなことしたら九条様を傷つけてしまうじゃない・・・。

はあ・・・また深い溜息。
その溜息とともに、私のイメージの中の紗倉も鏡の中でふわりと溶けて消えてしまった。

「あ・・・でも、そう言えば私、結局占術してないじゃん」

そうひとりごちする。そうなのだ。橋本のマンションまで行って、測量までしたにも関わらず、私は占うことなくそのまま帰ってきてしまっていたのだ。

占部の術師が出向いていって、報告書に占術結果のひとつもない、というのはあまりにも片手落ちだ。

まあ、今更な気もするけど・・・

ちょっとだけ逡巡したけれども、今の気分じゃとてもじゃないけど報告書の続きなんか書けそうにない。気分転換と言っては何だが、ちょっと自分の得意分野のことをしてみるのもいいかもしれない。
そんな風に考えた私は、化粧室を出ると、自分のロッカーから羅盤と鏢(ひょう)を取り出す。鏢とは中国で用いられる金属製の短い投げナイフのようなものだ。武器として用いる時は、手裏剣のように投げるのだ。マンガなどで、女忍者が使う『苦無(くない)』という武器を想像してもらえればいいと思う。私の鏢は特別製で、その短い持ち手についた円環に金属製のワイヤーが括られており、吊り下げるとダウジングの錘として用いることができるようになっている。というか、私はこの鏢を、主としてそのような用途で用いているのだ。

「ちゃっちゃと橋本燈矢のことを占っちゃおう」

誰にともなく言う。これは、依頼された調査の一環なので、もちろん『不法行使』には当たらない。

陰陽寮の裏庭、人がめったに来ない場所に、そっと羅盤を置き、鏢をその真上に垂らした。

指先に込めた呪力がゆっくりと鏢に落ち、ぼんやりとそれを光らせる。それは方位神たる八将神が描かれた羅盤を照らし、そこに陰影を形作る。最初はゆっくり、次第に早く、鏢は明滅と振動を繰り返し、複雑な文様を羅盤に刻んでいく。

「八将神・天性二十八星宿・羅喉(らごう)此れ(これ)翻り(ひるがえり)、大将軍我に其御方を立ち居示せ」
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