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天狐あやかし秘譚
第105章 依々恋々(いいれんれん)
『あれ?入社した時メガネだったよね?
 コンタクトにしたんだー・・・へー!そっちのほうが断然かわいいじゃん』

橋本にしたら単なる社交辞令。
でも、紗倉にしたら青天の霹靂だった。

振られて、自信をなくしていた彼女にとって、そのたった一言がまるで天啓のごとく身体全体を貫いたのだ。

『私には、もうこの人しかいないっ!』

生来、こだわりが強くで凝り性な上、思い立ったら一途に過ぎる強烈な恋愛体質である彼女の感情のリミッターがここで振り切れたのだ。

・・・ああ、ここからね・・・ストーカーが始まったのは・・・。

後は先程、調書で読んだとおりである。
偏執的なまでの調査、研究は彼の私生活全てを覆い尽くしたいという欲望にまで膨らんでいく。そして、彼女の影に怯えた橋本は友人の武井を通じて、陰陽寮に助けを求め、現在に至る・・・。

やっぱり、占術の結果も、供述と矛盾しない。
今回の事件は紗倉のことを橋本が誤認したっていうことで片がつきそうだ・・・

こうして占ってみると、ますます、紗倉の思いが伝わってくる。
たしかにやり方は偏執的だし、犯罪だ。
しかし、彼女が橋本を見詰める目は、恋する乙女そのものだった。

私と・・・変わらないじゃん・・・
そう思った。

瞬間、この私の思いに術式が感応する。
私の九条様への思いを読み取り、この事件の縁を辿って九条様の命運へのアクセスをしはじめたのだ。

いけない!

そう思ったときには遅かった。私の眼前には、先程の橋本のそれよりも、よほどはっきりと光のタペストリーが紡がれてしまう。

私の心の中の九条様への思いが、願いとなって風水観念図と響き合う。

キラキラとした光が教える・・・愛しい人の過去、
その願いや思い。

飄々とした立ち居振る舞いの陰で、人一倍の努力を惜しまない彼の様子・・・
そこには、確かに際には恵まれているが、名家に生まれた重荷を背負いながら必死に努力し、今の地位を手に入れた、そのたゆまぬ努力の痕跡がありありと見て取れた。その想いを目の当たりにした私の目に、涙があふれる。
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