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天狐あやかし秘譚
第14章 暗雲低迷(あんうんていめい)
☆☆☆
りん・・・・・

鈴を鳴らす。フェンスを登ってきた女怪達が数体、また落ちる。
フェンスを登ってくる数が、さっきよりも増えてきている。

いいや、違う。
結界内の様子を窺うとこの地域に発生している女怪の数そのものが徐々に増えている事がわかる。これ以上増えたら、たとえ私の結界が生きていても霊障を抑えることができなくなってしまう。

バシン!

青いイナズマが走り、また数体の女怪をふるい落とす。

りん・・・・・

鈴を鳴らし、四方に据えた金属符で共鳴を引き起こす。鈴を鳴らすたびに金属符は細かに震え、微小なヒビが入っていく。いかに金属の符とは言え、酷使すれば消耗する。術による消耗、女怪の妖力によるダメージなど。蓄積された損傷は符を確実に脆くしていた。

お願い・・・もう少し・・・大鹿島様が来るまで・・・。

祈る思いだ。結界を支えるために呪言を奏上する。

「元帥霊泉、四季三界、陰陽二神、邪を封じよ、北斗七星辰、泰山府君、刻み刻みて、鬼道霊光微塵に切って放つ、龍気、剣戟、四柱神の御力、ここに切って候」

りん・・・・

またひとつ、鈴を鳴らす。とうとう南の符がミシリと嫌な音を立てる。

まずい・・・。焼ききれてしまいそうだ。

そして、符のきしみを聞いた数分後のこと、

りん・・・・・

何度目かの鈴を鳴らしたとき、南の符が限界を迎えた。バチンという音とともに、符が縦に裂けた。

しまった・・・符を張り直さないと結界が維持できない!
右手に鈴を持っているので、左手でリュックを探る。予備の符があったはずだ。

だが、その隙をついて、数匹の女怪が南のフェンスから屋上に入り込んできた。

「ぐがあああ・・・ごおぐるぶ・・・ぐううああ・・・」

四つん這いで迫る者、片足を引きずる者、目が見えないのかフラフラと歩きながら迫る者、様々な姿の黒い女の妖魅がこちらに迫ってくる。

これの相手をしながら結界を張り直すのは難しい。どうしたら・・・?

りん・・・・・

鈴を鳴らすと、かすかに女怪たちは後ずさる。鈴単体にもかすかに退魔の効果はあるので、若干だが効き目はある。しかし、やはり撃退するには至らない。きちんと抑え込むには符による増強が必要だ。
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