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天狐あやかし秘譚
第14章 暗雲低迷(あんうんていめい)
恨みを持って死霊と化した女の怪異は次々と結界の隙間を縫って侵入してくる。動きは遅いし、一体ずつは問題ないほど弱いが、数が多過ぎる。

鈴の呪力で押し返しきれなかった女怪達がジリジリと迫ってくる。そして、ついに、いく本もの黒い手が私の身体を捉えようと伸びてきた。

ダメ!・・・もう・・・!

ぬるりとした冷たい指先が私の喉に絡みつこうとする。
死霊の気配に自らの死を覚悟した、その時・・・

シャン

清涼な音とともに、私の周囲にいた女怪達の胴が横一文字に薙ぎ払われ、黒い影が四散した。それは、一瞬のことだった。疾風のような太刀筋が闇夜にひらめき、屋上に入り込んだ全ての女怪を切り刻む。

「俺様、登場!」

ひゅんとカッコつけて太刀を薙ぎ払うように振り、刀を肩に担ぐようにして、その男は笑った。

「敷島ちゃん!よくがんばったな!!」

夜の街を背景に妙にカッコつけて佇む術者、口調や態度は若干軽いが、実力はある。彼こそは、祓衆陰陽博士、階位は属の3位・・・
「御九里様・・・・」
その名を呼び、敷島はホッとして、力が抜けそうになる。

「何やってんだ!早く、結界張り直せよ!」
御九里に叱咤され、ぐっと態勢を立て直す。確かに、今がチャンスだ・・・!

リュックから予備の金属符を取り出し、南に据え直し、中央の懐剣の座に戻る。再び呪言を唱え、結界を補強する。4つの金属符が光を取り戻し、結界が安定した。

良かった・・・、御九里がいれば金属符の張り直しができる。これでなんとか首の皮一枚、繋がった。

りん・・・・・

鈴に呪力を込め、またひとつ鳴らした。
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