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天狐あやかし秘譚
第16章 往事茫茫(おうじぼうぼう)
「土御門様・・・」
瀬良が土御門を見る。
「とにかく・・・現状、あれが安定しているんは確かだ。だから、今のうちに、住民を避難させる。瀬良・・・手配を」

いつもは瀬良ちゃん、というのに、そう言わない。
それだけ、彼も真剣だということがわかる。

「かしこまりました、土御門様」
瀬良が本部がある部屋に駆けていった。

「綾音はん・・・」
頭がフワフワしてよく考えがまとまらないまま座っていた私に土御門が声をかけてきた。
「天狐はんが、最後に言っとったんや・・・『綾音を連れてこい』とさ。別に天狐はあっこで永遠に封じられとる気やないみたいや。あんたを連れてけばなんとかなるんやろ?」

なんで?私が行って、なにか役に立つの?

「そうは思えないですけど」
でも、ダリが来てほしいと行っているのなら、きっと意味があるのだろう。それに、ダリが諦めていないなら、絶対にまた会えると思えた。
だって、ダリはいつだって誰よりも強いんだから。

「ダリが・・・来いと言うなら、もちろん行きます!」
「ええ覚悟やな・・・あの狐、なんだか羨ましいわ」
土御門はへへっと笑うが、私はとてもじゃないけどそんな気持ちになれなかった。
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