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天狐あやかし秘譚
第16章 往事茫茫(おうじぼうぼう)
☆☆☆
「この術式、正確には時間停止ではなく、時間遅延なのです!ううーーん・・・。内部の時間はざっと通常の100万分の1程度まで遅くなっているようですねえ。つまり、ここで1日過ごせば、外界では100万日、およそ2700年が過ぎる計算です」
興奮気味に土門杏理は言う。
「なるほどなあ、時間停止やないということは」
「はい!おそらく、天狐はこの場所の時空を凍結したのではなく、このライブラリーごと無理矢理に作り出した異界に閉じ込めた、みたいなことをしたのだと私は思うのです。なので、異界に入る要領で侵入可能!ただし・・・下手したら・・・」
「綾音はん、戻ってきたら、浦島太郎、ってわけやな」

つまり、入ることはできるけど、出てきた時に1000年とか経っているってこと?

「だ、大丈夫なのです!おそらく、天狐はその辺計算づくでしょうから。中に入って天狐に接触、術を解く時に時間軸の補正をしてもらえれば、この時間に帰ってこれます。・・・そうだ!一応念のためです。これを使いましょう」

土門はゴソゴソと背負っていたリュックから糸玉を取り出した。
「古典的ですが、元の場所に戻るためにはこっちとの縁を結ぶ必要があるのです!この玉の糸の先、綾音さんの足に結んどきますね」
んじゃあ、と、土御門が手を出す。
「糸玉はわいが持つわ。これで、綾音はんとの縁、わいがもてるっちゅーわけや。嬉しいね」
冗談とも本気ともつかない、笑みはいつも通り。それは少し私を安心させた。
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