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天狐あやかし秘譚
第19章 拈華微笑(ねんげみしょう)
静かに、それでも確実にその動きを小さくし、小さくし・・・最後に脚をピクリと動かしたきり、静止した。

石のように止まった。
そして、木の葉のように、ただ風に飛ばされていった。

別のビジョンが浮かぶ。なにかに襲われたのだろうか、幾筋もの血を流し、四つ足の獣がよろよろと『私』の根本に歩いてきた。幹によりかかり、息をつく。浅い呼吸を繰り返し、目を見開く。そして、それきり、目の光がまるで濁った水面のように失われた。

あとから来た別の獣が、倒れた獣の肉を食んだ。

人が倒れる、同じように。まだ、人里がこれほど近くなかった頃。『私』のもとで座り込み、そのまま動かなくなった人の子がいた。

『腹・・・減ったな』

確か、最後に、そう言ったと思う。
長い時間をかけて、そのものの身体は獣に食まれ、虫に喰らわれ、徐々に変色し、朽ち果て、土に戻った。
内側の硬い部分だけがしばらくは風雨にも耐えていたが、数回の季節の巡りとともに、粉々になり、見えなくなった。

二度と、その人の子が話をすることはなかった。

これは何だ?
 動いていたものが、動かなくなる。
 話していたものが、話さなくなる。
 歌っていたものが、歌わなくなる。

これは・・・なんだ?

ある時、人の子の親子が『私』のもとで話していた。
「おとうは、どこ行ったの?」
子は母と思しき者に問いかけた。
「おとうは、死んでもうた。もう、帰ってこんよ」

死・・・
死とは?

『私』が私と向き合っている。
振分け髪、赤い着物の木霊と、
浦原綾音が闇の中、向き合う。

私達の横には、大きなけやきが光り輝くようにたっている。

木霊が私に言った。
「死とは、もう花を咲かせないということか、
 死とは、もう、実を結ばないということか、
 死とは、もう、葉が青々と木々を飾ることがないということか」

そして、もう私は、二度とあの人と抱き合えぬということか・・・

『死』の概念が永遠にも等しい命を持つ樹の精霊の心に構成されていく。深く、深く理解する。これまで見てきた様々な『死』が魂の中で結びつき、確かなイメージとなっていく。
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