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天狐あやかし秘譚
第25章 毛骨悚然(もうこつしょうぜん)
ダリが槍を振り、切っ先についた血を払う。そのまま、槍は霧となって消えた。

「終わったぞ、綾音」

「う・・・うん」
ちょっと、ホッとした。なんだか正体がわからなかったけど、あそこまでバラバラにしたのなら・・・。

え?

私は目を疑った。

ズリ・・・ズリっとばらばらになった肉片が動き、集まり、ネチャネチャと嫌な音を立ててくっつき始めている。

再生している!?

「ダリ!後ろ」

私が声を上げたときには肉片は急速に相互にくっつき、まるで粘土が練り合わさるかのようにひとつの肉塊になっていく。

私の声でダリも振り返り、軽く舌打ちをする。
「しつこいの・・・」

右掌を肉塊に向け、呪言を唱える。

「高照らす ひこそあらめや かなた断ちなむ
 射干玉(ぬばたま)の 闇こそ断ちなむ その光持て」

キュウウ・・・

妙な音を立て、ダリの右掌にオレンジの光が収束する。
轟音とともに火球が打ち出されると、肉塊から立ち上がらんとしていたホシガリ様を業火が包み込む。

ひぎゃあああああああ!

凄まじい火炎の中で、顔を覆い、悶え苦しむ影が見える。
ダリが立ちふさがり、その凄惨な光景を私の視界から隠してくれた。
叫び声が消え、業火の勢いが落ちてきたことがダリの背中越しにも伝わってくる。

やっと・・・終わったの?

だが、ダリが私の前から動こうとしない。

「かああえええせええええ!!!」

再生がまだ追いついていないのか、ホシガリ様がしゃがれた声を発した。
なんで!?あの火の中からも復活したというの?

ダリが地面を蹴って走り出す。右手に再び古槍を顕現させる。
私の目の前からダリが駆け出したので、視界がひらけ、ホシガリ様が目に入った。

ひっ!

思わず声を上げる。

ホシガリ様の全身の肌は焼けただれ、頭皮は半分ズルリと落ちていた。顔の右半分は肉が削げ落ち、眼球と歯根がむき出しになっている。
身体中から白い煙をあげながら、それが向かったのは・・・

草介さん!?

ホシガリ様は宝生前が介抱している草介さんに向かって突っ込んでいていっていた。
鉤爪が光る手を草介さんに伸ばそうとする。
草介さんを取り戻そうとしている!?

ダメ!
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