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天狐あやかし秘譚
第26章 往古来今(おうこらいこん)

風が収まり、そっと目を開くと・・・周囲はすっかり明るくなっていた。先程まで夜だったのに、真っ昼間に早変わりしていた。ついでに、さっきまで中を伺っていた家もなくなっており、場所自体が別のところになっているようだった。
ここは?
池の畔のようなところだった。池はとてもきれいに澄んでいて、魚が泳ぐ姿がよく見えた。先ほどは虫の声が聴こえており、秋口という感じだったが、今は昼間であっても肌寒いほど気温が下がっている。どうやら、季節自体も冬になりつつあるようだ。時間軸も変わっている。
どういうことかな、と考え事をしていると、ガサガサ、と音がした。
誰か来る!
私は慌てて木陰に身を隠した。森の方から着物姿で髪の毛をおろした娘と、袴姿の男性が歩いてきた。娘は鼻が少し赤く、目が腫れぼったい感じで、さほど美人、というふうではないように見えた。
「清延様・・・。いよいよ、都にて召し抱えられるとお聞きしました。」
「ああ・・・喜んでくれるか?海子・・・。」
「もちろんでございます。海子は、清延様がお進みになる道が幸多きものであるよう、いつもお祈り申し上げております」
「お前は優しい娘だ・・・海子・・・」
清延と呼ばれた若者は、精悍な顔立ちをしていた。よく日に焼け、体つきはがっしりしているが、どこか優しげな表情をしていた。清延は海子の身体に腕を回す。
「海子よ・・・お主にも一緒に都に来てもらいたい」
その言葉に、海子が驚いたように顔を上げる。刹那、清延が海子の唇を奪った。
「いや、お主がなんと言おうと、連れて行く。儂と添い遂げるのは、主と決めておるのだ」
「清・・・延様・・・」
おずおずと、海子もまた清延の身体に手を回す。もう一度顔を見上げる。今度は優しいキスが交わされた。
「海子!」
突如、二人を恫喝するような声が池にこだました。彼らが来た森の道から、もう一人の娘が駆け出してくる。こちらの娘は海子に比べ、豊かな髪の毛を持ち、顔立ちも整っていた。
「海子!・・・お主・・・清延様をたぶらかしおったな!」
美しい顔を歪ませる。なんて・・・なんて・・・醜い顔をするの?
「姉様!」
海子の叫びとともに、世界がぐちゃりと崩れ、色彩が溶け合い、闇に飲まれる。不思議な浮遊感が一瞬襲ったと思うと、また別の場面に私は放り出された。
ここは?
池の畔のようなところだった。池はとてもきれいに澄んでいて、魚が泳ぐ姿がよく見えた。先ほどは虫の声が聴こえており、秋口という感じだったが、今は昼間であっても肌寒いほど気温が下がっている。どうやら、季節自体も冬になりつつあるようだ。時間軸も変わっている。
どういうことかな、と考え事をしていると、ガサガサ、と音がした。
誰か来る!
私は慌てて木陰に身を隠した。森の方から着物姿で髪の毛をおろした娘と、袴姿の男性が歩いてきた。娘は鼻が少し赤く、目が腫れぼったい感じで、さほど美人、というふうではないように見えた。
「清延様・・・。いよいよ、都にて召し抱えられるとお聞きしました。」
「ああ・・・喜んでくれるか?海子・・・。」
「もちろんでございます。海子は、清延様がお進みになる道が幸多きものであるよう、いつもお祈り申し上げております」
「お前は優しい娘だ・・・海子・・・」
清延と呼ばれた若者は、精悍な顔立ちをしていた。よく日に焼け、体つきはがっしりしているが、どこか優しげな表情をしていた。清延は海子の身体に腕を回す。
「海子よ・・・お主にも一緒に都に来てもらいたい」
その言葉に、海子が驚いたように顔を上げる。刹那、清延が海子の唇を奪った。
「いや、お主がなんと言おうと、連れて行く。儂と添い遂げるのは、主と決めておるのだ」
「清・・・延様・・・」
おずおずと、海子もまた清延の身体に手を回す。もう一度顔を見上げる。今度は優しいキスが交わされた。
「海子!」
突如、二人を恫喝するような声が池にこだました。彼らが来た森の道から、もう一人の娘が駆け出してくる。こちらの娘は海子に比べ、豊かな髪の毛を持ち、顔立ちも整っていた。
「海子!・・・お主・・・清延様をたぶらかしおったな!」
美しい顔を歪ませる。なんて・・・なんて・・・醜い顔をするの?
「姉様!」
海子の叫びとともに、世界がぐちゃりと崩れ、色彩が溶け合い、闇に飲まれる。不思議な浮遊感が一瞬襲ったと思うと、また別の場面に私は放り出された。

