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天狐あやかし秘譚
第26章 往古来今(おうこらいこん)
「もちろん、我々も見返りを求めます。これは取引です。よくお考えください。ただし、このヒレを用いれば、貴女の望みを叶えることは・・・」
「そなたの望みは?」
女の声に余裕がない。おそらく、気持ちは既に受け入れる方向なのだろう。男の方もそれがわかっているのか、鷹揚に構えている。
「何・・・こちらの求めるものは、やすきこと。契(ちぎり)をなしたい。あなたが生きている限り、そのヒレの力で一年に一度のみ、浮内の家のために用をなしていただければよいのです」

契を・・・?

女は囁くように声を漏らす。心が揺れている様子が手に取るように分かる。
「分かった・・・契を受け入れよう」

一瞬、男の唇がとても嫌な感じに歪んだ、ように見えた。

「では・・・契を交わしましょう」

すううっと幕を下ろすように世界が暗闇に支配される。男が女の背に何かを刻んでいる。女は痛みに耐え、それでも、その目は彼方を見ていた。

世界が暗転する。また、別の時空に私は飛ばされていった。
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