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天狐あやかし秘譚
第27章 銘肌鏤骨(めいきるこつ)

☆☆☆
だいぶ時間が経ち、やっと男が目を覚まし、起きあがったようだった。
『目が覚めたか?』
時間が経ち、『私』はやっとまともに話せるようになっていた。
男はまだぼんやりとしているのか、あたりをウロウロと見回している。
「あなたは?」
男から『私』の姿は見えていない。男との間には御簾を垂らしておいた。向こう側にしか明かりがないので、こちらからは男の影が見えるので、多少の様子はわかるが、男から『私』の様子を窺うことは出来ない。
『『私』の名は・・・』
言いかけて、『私』は自分の名前がわからなくなっていることに愕然とした。
『私』は・・・『私』は一体・・・何という名だった?
戸惑っていると、男の方から声を上げた。
「貴女が・・・ホシガリ様でしょうか?兄上が申していました。『お前の役目は、お屋敷にいるホシガリ様を慰めること』と。」
この屋敷にいるのは『私』だけだ。だとしたら、『私』こそが『ホシガリ様』であるということになる。そして、この男は、その『ホシガリ様』を慰めるために来た、というのだ。
「私は、浮内の家からホシガリ様の婿として参りました・・・。名を、左近次と申します。何卒・・・よろしくお願いいたします。」
左近次と名乗った男と『私』は暫く御簾越しに話をした。何年かぶりに人と話ができ、『私』の心は軽くなった。
こんな形で何日かが過ぎた頃、『私』はどうしても、彼に触れたくなった。一度頬に触れた時の温かさが忘れられなかったからだ。
『左近次・・・』
「はい、なんでしょう・・・ホシガリ様」
手を取ってほしい・・・等と言って大丈夫だろうか?
また、逃げ出したりはしないだろうか?
怖かった。触れたら、また失いそうで、怖かった。
でも、それ以上に心の渇きの方が勝っていた。
『妾の手を・・・握っておくれ』
そっと、御簾から手を差し出した。
心臓が、痛いほど鼓動していた。手は小刻みに震えていた。
その手に、男の指先が遠慮がちに触れ、そして、握りしめてくれた。
なんて・・・温かい・・・。
だいぶ時間が経ち、やっと男が目を覚まし、起きあがったようだった。
『目が覚めたか?』
時間が経ち、『私』はやっとまともに話せるようになっていた。
男はまだぼんやりとしているのか、あたりをウロウロと見回している。
「あなたは?」
男から『私』の姿は見えていない。男との間には御簾を垂らしておいた。向こう側にしか明かりがないので、こちらからは男の影が見えるので、多少の様子はわかるが、男から『私』の様子を窺うことは出来ない。
『『私』の名は・・・』
言いかけて、『私』は自分の名前がわからなくなっていることに愕然とした。
『私』は・・・『私』は一体・・・何という名だった?
戸惑っていると、男の方から声を上げた。
「貴女が・・・ホシガリ様でしょうか?兄上が申していました。『お前の役目は、お屋敷にいるホシガリ様を慰めること』と。」
この屋敷にいるのは『私』だけだ。だとしたら、『私』こそが『ホシガリ様』であるということになる。そして、この男は、その『ホシガリ様』を慰めるために来た、というのだ。
「私は、浮内の家からホシガリ様の婿として参りました・・・。名を、左近次と申します。何卒・・・よろしくお願いいたします。」
左近次と名乗った男と『私』は暫く御簾越しに話をした。何年かぶりに人と話ができ、『私』の心は軽くなった。
こんな形で何日かが過ぎた頃、『私』はどうしても、彼に触れたくなった。一度頬に触れた時の温かさが忘れられなかったからだ。
『左近次・・・』
「はい、なんでしょう・・・ホシガリ様」
手を取ってほしい・・・等と言って大丈夫だろうか?
また、逃げ出したりはしないだろうか?
怖かった。触れたら、また失いそうで、怖かった。
でも、それ以上に心の渇きの方が勝っていた。
『妾の手を・・・握っておくれ』
そっと、御簾から手を差し出した。
心臓が、痛いほど鼓動していた。手は小刻みに震えていた。
その手に、男の指先が遠慮がちに触れ、そして、握りしめてくれた。
なんて・・・温かい・・・。

