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天狐あやかし秘譚
第35章 真実一路(しんじついちろ)

せめて、懐の中ででも母親に会わせてあげたい・・・そう御九里に無理を言ったのだ。御九里自身は、魂を金人形に込める『魂込め』が終わったら、すぐにでも常世送りにしたがったのだが、芝三郎の必死の願いに折れた形だ。
「うんそうだけどさ・・・、きっと会えたよ、環ちゃん。きっとさ」
なんの慰めにもならないけど、そう言ってあげたかった。それほどに芝三郎は必死だった。
「それにしても、芝三郎、演技上手だよね。最後のセリフ、私もらい泣きしそうだったよ。『ママ・・・お空に来たとき、環にたくさん楽しいお話をしてね。』とか『私ママの子に生まれて良かった。』とかさ・・・」
あれは脚本にないセリフだった。こんなに愛に溢れた言葉が芝三郎の口からアドリブで出てくるのに驚いた。
「拙者・・・そのようなことは口に出してござらん」
「え?だって・・・最後、ダリに転移させてもらっている時、確かに・・・」
確かに芝三郎は言っていた。『ママ、笑ってくれて嬉しかった』とも。
「環、という娘が言ったのかもしれない。」
ダリが言った。最後の言葉はダリにも響いていたという。でも、それは、『声』ではなく、心に直接語りかけるようなものだった、というのだ。
「その者の、最後の力だったのかもな」
そうだったとしたらいい。少しでも、最期の最期で、親子が本当の気持ちで触れ合えたなら、それに越したことはない。
「確かにそうかもしれぬ。環は、今際の際に見た母の姿が泣き顔だったことをいたく気にしていた。最後、母は笑っていた・・・あれが、環の常世への良い土産になれば・・・」
その言葉が途中で途切れた。立ち上がって、屋上の外を眺める背中しか見せなかったので、その表情は分からないが、肩が小さく震えていた。
「おう・・・三文芝居、終わったなら、さっさと声かけろよな!」
ちょっとだけ、ジーンとしていたシーンに、闖入者が現れた。御九里だ。そう言えば、病院の待合で、清香ちゃんの面倒を見てもらっていたんだった。余韻に浸るあまり、声掛けが遅くなってしまった。
「まま!」
清香ちゃんが御九里の手からぴょんと飛び出し、私に駆け寄ってきた。そのままぎゅっと抱きついてくる。
その姿が、先程、芝三郎が化けた環ちゃんが母親に抱きついていた様子を思い出させた。
「うんそうだけどさ・・・、きっと会えたよ、環ちゃん。きっとさ」
なんの慰めにもならないけど、そう言ってあげたかった。それほどに芝三郎は必死だった。
「それにしても、芝三郎、演技上手だよね。最後のセリフ、私もらい泣きしそうだったよ。『ママ・・・お空に来たとき、環にたくさん楽しいお話をしてね。』とか『私ママの子に生まれて良かった。』とかさ・・・」
あれは脚本にないセリフだった。こんなに愛に溢れた言葉が芝三郎の口からアドリブで出てくるのに驚いた。
「拙者・・・そのようなことは口に出してござらん」
「え?だって・・・最後、ダリに転移させてもらっている時、確かに・・・」
確かに芝三郎は言っていた。『ママ、笑ってくれて嬉しかった』とも。
「環、という娘が言ったのかもしれない。」
ダリが言った。最後の言葉はダリにも響いていたという。でも、それは、『声』ではなく、心に直接語りかけるようなものだった、というのだ。
「その者の、最後の力だったのかもな」
そうだったとしたらいい。少しでも、最期の最期で、親子が本当の気持ちで触れ合えたなら、それに越したことはない。
「確かにそうかもしれぬ。環は、今際の際に見た母の姿が泣き顔だったことをいたく気にしていた。最後、母は笑っていた・・・あれが、環の常世への良い土産になれば・・・」
その言葉が途中で途切れた。立ち上がって、屋上の外を眺める背中しか見せなかったので、その表情は分からないが、肩が小さく震えていた。
「おう・・・三文芝居、終わったなら、さっさと声かけろよな!」
ちょっとだけ、ジーンとしていたシーンに、闖入者が現れた。御九里だ。そう言えば、病院の待合で、清香ちゃんの面倒を見てもらっていたんだった。余韻に浸るあまり、声掛けが遅くなってしまった。
「まま!」
清香ちゃんが御九里の手からぴょんと飛び出し、私に駆け寄ってきた。そのままぎゅっと抱きついてくる。
その姿が、先程、芝三郎が化けた環ちゃんが母親に抱きついていた様子を思い出させた。

