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天狐あやかし秘譚
第42章 愛多憎生(あいたぞうせい)

光のない部屋の中、『それ』は不思議な白い燐光を放っていた。大きさは数センチほど、古代の勾玉の形状をしていた。ただ、表面には白と黒の紋様がウネウネと蠢いており、鈍い光が息づくように微かに明滅していた。
これが・・・?
そっと手を伸ばす。指先が触れると、ビリっと痺れが走った。慌てて一旦手を引く。普通のモノではないことは明白だった。
意を決して、もう一度、右手を伸ばす。今度はビリッとした痺れに耐え、『それ』を箱から取り出した。
『それ』を掴んだ右手が熱くなる。何かが自分の体の中に流れ込んでくるのが分かった。足玉の放つ燐光が、右手を、ついで、上腕を、そして肩を、徐々に体全体に伝わり、全身を包んでいく。そして、燐光に包まれた部分が・・・
『わ・・若返っている・・・』
皮膚が張りを取り戻し、細く萎えた腕は太く年齢相応に逞しくなった。ぶかぶかだった服も、筋肉が帰ってくるのに従って、ピッタリのサイズになっていく。
左手で顔に触れる。シワだらけだった顔がつるりとした感触になっている。そして、気がつくと、呼吸が楽になり、全身を蝕んでいた痛みが消えていた。
ぐっと、手に、足に、力が入る。
力が・・・漲ってきた。
はは・・・ははは・・・・
笑いが漏れる。腹の底から喜びが満ち溢れた。
やった・・・やった・・・
戻った・・・取り戻した・・・やっと、俺の身体・・・
生まれてから一度も感じたことがないほど、身体は軽く、気分がスッキリしていた。
生命力を感じる。生きていると・・・生きていけると、感じた。
ボロボロと涙が溢れてきた。
これでやっと・・・やっと・・・俺は人生を生きられる。
ぎい、と廊下の方で音がした。家人の誰かが起き出してきたのかもしれない。
逃げなくては・・・
俺の頭はそのことでいっぱいだった。
この、足玉を持って、逃げて、俺の人生を生きる。
ただ、それだけが、俺を突き動かしていった。
これが・・・?
そっと手を伸ばす。指先が触れると、ビリっと痺れが走った。慌てて一旦手を引く。普通のモノではないことは明白だった。
意を決して、もう一度、右手を伸ばす。今度はビリッとした痺れに耐え、『それ』を箱から取り出した。
『それ』を掴んだ右手が熱くなる。何かが自分の体の中に流れ込んでくるのが分かった。足玉の放つ燐光が、右手を、ついで、上腕を、そして肩を、徐々に体全体に伝わり、全身を包んでいく。そして、燐光に包まれた部分が・・・
『わ・・若返っている・・・』
皮膚が張りを取り戻し、細く萎えた腕は太く年齢相応に逞しくなった。ぶかぶかだった服も、筋肉が帰ってくるのに従って、ピッタリのサイズになっていく。
左手で顔に触れる。シワだらけだった顔がつるりとした感触になっている。そして、気がつくと、呼吸が楽になり、全身を蝕んでいた痛みが消えていた。
ぐっと、手に、足に、力が入る。
力が・・・漲ってきた。
はは・・・ははは・・・・
笑いが漏れる。腹の底から喜びが満ち溢れた。
やった・・・やった・・・
戻った・・・取り戻した・・・やっと、俺の身体・・・
生まれてから一度も感じたことがないほど、身体は軽く、気分がスッキリしていた。
生命力を感じる。生きていると・・・生きていけると、感じた。
ボロボロと涙が溢れてきた。
これでやっと・・・やっと・・・俺は人生を生きられる。
ぎい、と廊下の方で音がした。家人の誰かが起き出してきたのかもしれない。
逃げなくては・・・
俺の頭はそのことでいっぱいだった。
この、足玉を持って、逃げて、俺の人生を生きる。
ただ、それだけが、俺を突き動かしていった。

