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天狐あやかし秘譚
第45章 奸佞邪智(かんねいじゃち)

ぐううう・・・がああ・・・
足玉を取り上げられたせいか、颯馬の横で真白が胸を押さえてうずくまる。抜けるような白い肌に徐々に醜い暗紫色の爛れが広がっていく。さっきと同じだ・・・疱瘡神になりかかっている。
「お前!・・・ふざけるな!」
先程から、私達もただぼんやり眺めているわけではない。なんとかして颯馬や真白のいる場所に行こうとしているのだが、いかんせん、空間の裂け目から吹き出す昏く重い瘴気の奔流が強すぎて、近づくことすら出来ないでいた。私と瀬良のことはダリが結界で守ってくれているし、土御門は勾陳を消し、その前に黄色っぽい光が展開しているところを見ると自前で何らかの結界を張っているようだ。しかし、吹き飛ばされずに踏ん張るのが精一杯で近づくことは叶わなかった。
だが、ここにきてやっと、土御門とダリが動いた。
土御門が剣を肩の後ろにぐっと引き、その切っ先を下に向ける。いわゆる霞の構えだ。
ダリも槍を高く掲げるようにして持ち、その穂先をピタリと謎の男に据えた。
現陰陽寮の最高戦力たる二人が、同時にあの『お館様』と呼ばれた男を敵とみなしたのだ。
「武荅天神(むとうてんじん)、婆梨妻女(はりさいめ)、
八王子奉請して白して言わく、
急ぎ上酒を掲げ再拝、再拝せよ
生広天王(しょうこうてんおう)、魔王天王(まおうてんのう)、
倶摩羅天王(くらまてんのう)、 達你迦天王(たつにてんのう)、
蘭子天王(らんしてんのう)、徳達天王(とくたつてんのう)
神形天王(じんぎょうてんのう)、三頭天王(さんずてんのう)
慎み敬いてもの申す
白きの御門(みかど) その権能を欲す
急ぎ急ぎてここにてふるへ」
「天地を 玉ごに照らす 久方の日よ
天離る 日なき根の国 もののこそ去ね」
呪言の奏上に従い、土御門の蛇之麁正の刀身が甲高い金属音を上げ、うっすら光を放ち始める。私にすら、先ほどシラクモの虫を蹴散らしたときよりも強い力が集積されているのがわかるほどだった。
ダリの退魔の槍の穂先からも力強く神々しい光が溢れてくる。ダリ曰く、地の下にある死者の国である『根の国』の隅々まで照らし出す創世の光、だそうだ。確かに、彼の持つ天魔反戈は、この日本の国土を作った際に使われたと伝えられている天沼矛(あまのぬぼこ)の別名だと言われている。
足玉を取り上げられたせいか、颯馬の横で真白が胸を押さえてうずくまる。抜けるような白い肌に徐々に醜い暗紫色の爛れが広がっていく。さっきと同じだ・・・疱瘡神になりかかっている。
「お前!・・・ふざけるな!」
先程から、私達もただぼんやり眺めているわけではない。なんとかして颯馬や真白のいる場所に行こうとしているのだが、いかんせん、空間の裂け目から吹き出す昏く重い瘴気の奔流が強すぎて、近づくことすら出来ないでいた。私と瀬良のことはダリが結界で守ってくれているし、土御門は勾陳を消し、その前に黄色っぽい光が展開しているところを見ると自前で何らかの結界を張っているようだ。しかし、吹き飛ばされずに踏ん張るのが精一杯で近づくことは叶わなかった。
だが、ここにきてやっと、土御門とダリが動いた。
土御門が剣を肩の後ろにぐっと引き、その切っ先を下に向ける。いわゆる霞の構えだ。
ダリも槍を高く掲げるようにして持ち、その穂先をピタリと謎の男に据えた。
現陰陽寮の最高戦力たる二人が、同時にあの『お館様』と呼ばれた男を敵とみなしたのだ。
「武荅天神(むとうてんじん)、婆梨妻女(はりさいめ)、
八王子奉請して白して言わく、
急ぎ上酒を掲げ再拝、再拝せよ
生広天王(しょうこうてんおう)、魔王天王(まおうてんのう)、
倶摩羅天王(くらまてんのう)、 達你迦天王(たつにてんのう)、
蘭子天王(らんしてんのう)、徳達天王(とくたつてんのう)
神形天王(じんぎょうてんのう)、三頭天王(さんずてんのう)
慎み敬いてもの申す
白きの御門(みかど) その権能を欲す
急ぎ急ぎてここにてふるへ」
「天地を 玉ごに照らす 久方の日よ
天離る 日なき根の国 もののこそ去ね」
呪言の奏上に従い、土御門の蛇之麁正の刀身が甲高い金属音を上げ、うっすら光を放ち始める。私にすら、先ほどシラクモの虫を蹴散らしたときよりも強い力が集積されているのがわかるほどだった。
ダリの退魔の槍の穂先からも力強く神々しい光が溢れてくる。ダリ曰く、地の下にある死者の国である『根の国』の隅々まで照らし出す創世の光、だそうだ。確かに、彼の持つ天魔反戈は、この日本の国土を作った際に使われたと伝えられている天沼矛(あまのぬぼこ)の別名だと言われている。

