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天狐あやかし秘譚
第1章 【第1話 天狐】禍福糾纆(かふくきゅうぼく)
近くで見ると、なおさらカッコいい・・・。
って、いや、違うでしょ!私!!

だが、その眼に見つめられると緊張からか、全く動けなくなった。

「ふむ・・・造作は悪くないな」

しげしげと私の顔を見る。ふわっと伽羅のような香りが鼻をつく。
間近で見ると、まつげも長く、白い肌に赤い唇が妙にセクシーだった。

「それに・・・この匂い・・・。まだ”をとめ”のようじゃな」

え?乙女って・・・そりゃ私は乙女だけどさ。

「拾いものじゃな」

ダリが、そっと顔を近づけてくる。
え?え?えーーー!!!
キスをせんばかりの距離だ。

思わず両手で突き飛ばしてしまう。

「ん?なんじゃ?愛してほしいと言ったのはそなたじゃろう。」

そ、そりゃ言ったけど・・・言ったけど・・・いきなりは・・・。
いや、ゆっくりでも・・・。え?ど、どうしよう!?

「おお、そうか、褥(しとね)がいりようか?」

しとね?って、要はお布団のこと?

「それはすまんことをした。野辺のまぐわいは気に召さぬか・・・?」
さらっと「まぐわい」とか言うな!とツッコミを入れている間に、『では』、とダリは立ち上がると、ぱっと手にした扇子を開いた。旋風がダリを中心に渦を巻く。それは瞬く間に強くなり、粉塵を巻き上げる竜巻のようになった。

「きゃ」

たまらず目を閉じる。ごうごうという風の音が20秒ほど続いただろうか、すっと収まる。

「もう良いぞ、目を開けよ」

ダリに促され、恐る恐る目を開けてみる。

え?なんで?

さっきまで山の中にいたはずなのに、いつの間にか私とダリは広い広い古民家の一室にいた。
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