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天狐あやかし秘譚
第48章 月下氷人(げっかひょうじん)

☆☆☆
「瀬良ちゃんも飲まへん?」
大きな窓の近くに置かれた籐の椅子に腰掛けて、土御門様がブランデーのグラスを傾けていた。『月が綺麗やで、一緒に見よう』と、部屋に押しかけてきて、勝手に電気を消して、腰掛けて・・・。
我が主ながら、本当に身勝手だ。
「飲みません」
「付き合い悪いな〜」
「仕事中ですから」
私の意識としては、今は仕事中だ。
土御門様をフォローすること、そして、守ることが私に与えられた生まれながらの使命。主がいるところで、酒を飲むことなど、基本はしない。
「真面目やな、瀬良ちゃん」
「何があるか、わかりませんし・・・」
私は、今日、出会った者たちのことを思い出していた。
緋紅という謎の男。
颯馬を『イタツキ』と呼んでいた。シラクモ、という男もいた。ふたりは神宝を使い、緋紅もまた、神宝を使っていた。何かの組織、なのかもしれない。
結果的に、あいつはあの場にあった全ての神宝を奪っていった。
自らを『大和の民の殲滅者』と宣言した男。何かとんでもなく大きな悪意を感じる。
気を、抜くなんて出来ない。
はあ・・・と土御門様がため息をつく。
「今夜は大丈夫やと思うけどなあ・・・」
「油断大敵って、ご存知ですか?」
言ってやる。
多少は警戒心を持ってほしいものだ。
「ま、ええわ・・・じゃあ、せめて膝の上、乗って?」
なっ・・・!?
「何言ってるんですか!?」
不覚にも顔が赤くなる。室内は暗く、青い月明かりが窓に切り取られ、彼が座っているあたりにだけ、四角く落ちている。私の顔は陰になって見えていない、と信じたい。
「じゃあ、せめて、隣に」
しつこいな・・・。
「向かい合わせなら・・・」
あまりに主の言うことを無下にするのもと、ちょっと仏心が出た。隣に座ると変な気持ちになるような気がしたので、せめて向かいに座ろうと。
月明かりの中に、そっと足を踏み入れる。
私の身体も青く染まった。
「失礼します」
向かい合う籐の椅子に腰を掛ける。土御門様がふっと窓の外を見るので、釣られて私もそちらを見た。
窓の外に、冴えた月光。
暗く沈んだ町がまるで水底のようにも見える。
「きれいやな」
月明かりに照らされて、ゆっくりとグラスを傾ける土御門様に、見惚れそうになり、慌てて目を背ける。これだから、嫌なんだ・・・。
「瀬良ちゃんも飲まへん?」
大きな窓の近くに置かれた籐の椅子に腰掛けて、土御門様がブランデーのグラスを傾けていた。『月が綺麗やで、一緒に見よう』と、部屋に押しかけてきて、勝手に電気を消して、腰掛けて・・・。
我が主ながら、本当に身勝手だ。
「飲みません」
「付き合い悪いな〜」
「仕事中ですから」
私の意識としては、今は仕事中だ。
土御門様をフォローすること、そして、守ることが私に与えられた生まれながらの使命。主がいるところで、酒を飲むことなど、基本はしない。
「真面目やな、瀬良ちゃん」
「何があるか、わかりませんし・・・」
私は、今日、出会った者たちのことを思い出していた。
緋紅という謎の男。
颯馬を『イタツキ』と呼んでいた。シラクモ、という男もいた。ふたりは神宝を使い、緋紅もまた、神宝を使っていた。何かの組織、なのかもしれない。
結果的に、あいつはあの場にあった全ての神宝を奪っていった。
自らを『大和の民の殲滅者』と宣言した男。何かとんでもなく大きな悪意を感じる。
気を、抜くなんて出来ない。
はあ・・・と土御門様がため息をつく。
「今夜は大丈夫やと思うけどなあ・・・」
「油断大敵って、ご存知ですか?」
言ってやる。
多少は警戒心を持ってほしいものだ。
「ま、ええわ・・・じゃあ、せめて膝の上、乗って?」
なっ・・・!?
「何言ってるんですか!?」
不覚にも顔が赤くなる。室内は暗く、青い月明かりが窓に切り取られ、彼が座っているあたりにだけ、四角く落ちている。私の顔は陰になって見えていない、と信じたい。
「じゃあ、せめて、隣に」
しつこいな・・・。
「向かい合わせなら・・・」
あまりに主の言うことを無下にするのもと、ちょっと仏心が出た。隣に座ると変な気持ちになるような気がしたので、せめて向かいに座ろうと。
月明かりの中に、そっと足を踏み入れる。
私の身体も青く染まった。
「失礼します」
向かい合う籐の椅子に腰を掛ける。土御門様がふっと窓の外を見るので、釣られて私もそちらを見た。
窓の外に、冴えた月光。
暗く沈んだ町がまるで水底のようにも見える。
「きれいやな」
月明かりに照らされて、ゆっくりとグラスを傾ける土御門様に、見惚れそうになり、慌てて目を背ける。これだから、嫌なんだ・・・。

