この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
天狐あやかし秘譚
第57章 自縄自縛(じじょうじばく)

☆☆☆
ガン、ガン、ガン!
ものすごい力で八門遁甲の陣により張られた結界を叩き続ける。相手が鬼と知り、それに合わせ、いわゆる方位除けの結界を設えたが、やはり即席だったせいか強度が出ていない。鬼と化した京依に殴りつけられる度に、ビリっ!ビリっ!と激しく振動をしながら、不可視の障壁にヒビが入っているのを感じる。
破られるのも時間の問題ね。
次の手を打たなければ。私は『玲子』と京依の間に立つと、呪符を取り出しそれに水をかける。元来、私の最も得意とする術式は『水気』の術。対して鬼が属する五行は『金』。水気は金気と相生関係にあることからあまり術の相性は決していいとは言えない。
ただ、今回の場合、この鬼の調伏を目指しているわけではない。目の前にいる京依はまだ『鬼』になりきっていないのだ。どうやってあそこまでの瘴気を取り込んだのかは謎だが、人を殺めていないなら、まだ人に戻るチャンスはある。
よって、私がやるべきは、水気の術式で足止めをしつつ、彼女の回向をすることである。
バリン!
とうとう、私の張った方位結界が破られた。鬼がゆらりと鬼門から入り込んでくる。ここまでは想定通りだった。鬼が踏み込んだ足元には既に次の一手である陣形が敷かれていた。私は霊符をその陣形に投げつけ、術を発動するべく、呪言を唱える。
「水気 歳刑縛鎖!」
大地に仕込んでおいた矩形の陣が青白く浮かび上がり、その中央に張り付いた水気を帯びた霊符から、幾筋もの水の鎖が立ち上っていく。その鎖はたちまちの内に鬼の身体を縛り上げていった。
歳刑縛鎖・・・土の術式である金剛縛鎖が、主として物理的な対象を縛り付けるのに対して、これは水気によって鬼のごとく陰気を持つ異形を縛り付けるのに特化した術である。鬼の持つ金の属性ではなかなか打ち破ることは出来ないはずだ。
想定通り、鬼はその腕を後ろ手に縛り付けられ、その自由を奪われる。
あとは、この鬼の持つ陰の気の元を断つだけである。
「あなた、京依ちゃんね?」
京依は髪を振り乱し、虚ろな青い目で私を睨みつけた。その口から発する臭気はすっかり鬼のそれになっている。昼間に玲子が会ったときには人間だったはずなのに、なんでこんなに短時間で鬼と化してしまったのか・・・。
ガン、ガン、ガン!
ものすごい力で八門遁甲の陣により張られた結界を叩き続ける。相手が鬼と知り、それに合わせ、いわゆる方位除けの結界を設えたが、やはり即席だったせいか強度が出ていない。鬼と化した京依に殴りつけられる度に、ビリっ!ビリっ!と激しく振動をしながら、不可視の障壁にヒビが入っているのを感じる。
破られるのも時間の問題ね。
次の手を打たなければ。私は『玲子』と京依の間に立つと、呪符を取り出しそれに水をかける。元来、私の最も得意とする術式は『水気』の術。対して鬼が属する五行は『金』。水気は金気と相生関係にあることからあまり術の相性は決していいとは言えない。
ただ、今回の場合、この鬼の調伏を目指しているわけではない。目の前にいる京依はまだ『鬼』になりきっていないのだ。どうやってあそこまでの瘴気を取り込んだのかは謎だが、人を殺めていないなら、まだ人に戻るチャンスはある。
よって、私がやるべきは、水気の術式で足止めをしつつ、彼女の回向をすることである。
バリン!
とうとう、私の張った方位結界が破られた。鬼がゆらりと鬼門から入り込んでくる。ここまでは想定通りだった。鬼が踏み込んだ足元には既に次の一手である陣形が敷かれていた。私は霊符をその陣形に投げつけ、術を発動するべく、呪言を唱える。
「水気 歳刑縛鎖!」
大地に仕込んでおいた矩形の陣が青白く浮かび上がり、その中央に張り付いた水気を帯びた霊符から、幾筋もの水の鎖が立ち上っていく。その鎖はたちまちの内に鬼の身体を縛り上げていった。
歳刑縛鎖・・・土の術式である金剛縛鎖が、主として物理的な対象を縛り付けるのに対して、これは水気によって鬼のごとく陰気を持つ異形を縛り付けるのに特化した術である。鬼の持つ金の属性ではなかなか打ち破ることは出来ないはずだ。
想定通り、鬼はその腕を後ろ手に縛り付けられ、その自由を奪われる。
あとは、この鬼の持つ陰の気の元を断つだけである。
「あなた、京依ちゃんね?」
京依は髪を振り乱し、虚ろな青い目で私を睨みつけた。その口から発する臭気はすっかり鬼のそれになっている。昼間に玲子が会ったときには人間だったはずなのに、なんでこんなに短時間で鬼と化してしまったのか・・・。

