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天狐あやかし秘譚
第61章 怒髪衝天(どはつしょうてん)
宝生前によると、もう少しで陰陽寮の救援部隊が到着するとのことだった。
救援部隊より先に、駆けつけてくれたんだと思うと、胸がまた一杯になる。

ぎゅっとかけてくれたスーツの前裾を両手で握る。うつむくと、スーツから彼の匂いが立ち上ってくるようで嬉しくなる。一歩、二歩・・・と、私は彼に歩み寄った。スーツの下はスッポンポンでよく考えたらとても恥ずかしいのだが、それよりも彼への思いが勝っていた。

「とっても・・・かっこよかったのです・・・宝生前さん・・・」

更に一歩近寄り、目を閉じて、少し顎を上げる。彼との身長差は大体10センチくらい。
私の唇はキス待機の形になっていた。

ねえ・・・早く・・・

映画なら、感動のラストシーン、ヒーローがヒロインの肩を抱いて、甘い口づけをするところなのです・・・。私の脳内には映画のエンディングに相応しい叙情的なメロディーが流れている。

そう、ここで、ちゅっ♡と・・・

ところが・・・感じたのは、期待したのと違う感触だった。
ふぁさっと私の身体を何かが包むような感覚・・・。

ん?

目を開けると、銀色のエマージェンシーシートで私はくるりとラッピングされていた。
「服を・・・着てください。土門様」
眼の前の私のヒーローは、やや呆れた顔をしていた。

「な・・・!今のはキスをするところなのです!」
「しませんよ」
「なんでですか!?そんなので視聴者が納得するとでも!?」
「誰ですか、視聴者って・・・」
「とにかく、キスするのです!」
「何度も言いますが、あなたは範疇外です」
「ぐ・・・うううう・・・乙女の柔肌をタダ見して!
 範疇外とは!!罪が重いのです!!」
「だいたいあなたが無茶なことをしたからこうなるんでしょうが!」
「そ・・だって!だって!」
「何が『だって!』なんですか!」

だって・・・

「あなたが、絶対助けてくれると思ったから」

うるっと見上げた私の顔を見て、宝生前が『うぐっ』と一瞬声をつまらせる。そして、『もー・・・』と顔を真っ赤にして目を逸らせたのだが、それが今日見せてもらった彼の表情の中で、一番可愛らしいものだったなと、私は思った。
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