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天狐あやかし秘譚
第61章 怒髪衝天(どはつしょうてん)

☆☆☆
宝生前と隣の占部の筆頭土門が活躍したらしい『辻神事件』と呼ばれている事案から3日が経った。ここは、陰陽寮陰陽部門祭部衆の執務室。
ここで事案の後日談を語るのは・・・申し遅れたが、祭部衆で陰陽生をやっている、わたくし杉山凛子(すぎやま りんこ)24歳となる。ちなみに、陰陽生とは、陰陽師になる修行をしている身、と言えば聞こえが良いが、要はまだ術師として認められていない半人前の雑用係である。
私の仕事はこの祭部衆の執務室の整備や事務諸々である。
陰陽寮の執務室は衆毎に分かれており、衆の長である大鹿島と、その側近である敷島はたいていいつも室にいる。その他の陰陽師は必要があるときにのみ出勤するというスタイルなので、普段、部屋には私と敷島と大鹿島だけ、ということも少なくない。大きな事件があると、陰陽師でごった返して机が足りなくなることもあるが、普段は静かなものである。
ここのところ、例の事件の事後処理や報告書作成などを行っている宝生前もよく室に現れている。ここ3日間は珍しく連続で出勤していた。
と、まあ、ここまでは普通の風景なのであるが、ここのところ、ちょっといつもと違うことがあった。隣の占部衆筆頭である土門杏里がよく室に顔を出すのである。
一昨日などは、入ってくるなり、どん、と机の上に大きくて立派な弁当箱を置いて、宝生前に一緒に食べようと迫っていた。宝生前は自弁派で、毎日、自分でバランスの良いお弁当を作ってきてる。その日ももちろん、お弁当を持参していた。
『いや、私、自分で持ってきていますし・・・』
まあ当然、そう言う。
ところが、土門は負けなかった。
『いえね、こちら見てください』
そう言って、弁当箱を開く。私や敷島もやや興味があったので覗いてみたのだが、ちょっと見、おせち料理のような感じの折詰弁当だった。
『これが?』
宝生前はあくまで冷めていた。なんとなれば迷惑そうにすら見えた。
『実は、先日手に入れた文献がありまして、これ、東北地方のある家で祀られていた、オシラサマの命日の際の儀礼食の再現でして・・・』
ぴくり、と宝生前の耳が動いた。
宝生前と隣の占部の筆頭土門が活躍したらしい『辻神事件』と呼ばれている事案から3日が経った。ここは、陰陽寮陰陽部門祭部衆の執務室。
ここで事案の後日談を語るのは・・・申し遅れたが、祭部衆で陰陽生をやっている、わたくし杉山凛子(すぎやま りんこ)24歳となる。ちなみに、陰陽生とは、陰陽師になる修行をしている身、と言えば聞こえが良いが、要はまだ術師として認められていない半人前の雑用係である。
私の仕事はこの祭部衆の執務室の整備や事務諸々である。
陰陽寮の執務室は衆毎に分かれており、衆の長である大鹿島と、その側近である敷島はたいていいつも室にいる。その他の陰陽師は必要があるときにのみ出勤するというスタイルなので、普段、部屋には私と敷島と大鹿島だけ、ということも少なくない。大きな事件があると、陰陽師でごった返して机が足りなくなることもあるが、普段は静かなものである。
ここのところ、例の事件の事後処理や報告書作成などを行っている宝生前もよく室に現れている。ここ3日間は珍しく連続で出勤していた。
と、まあ、ここまでは普通の風景なのであるが、ここのところ、ちょっといつもと違うことがあった。隣の占部衆筆頭である土門杏里がよく室に顔を出すのである。
一昨日などは、入ってくるなり、どん、と机の上に大きくて立派な弁当箱を置いて、宝生前に一緒に食べようと迫っていた。宝生前は自弁派で、毎日、自分でバランスの良いお弁当を作ってきてる。その日ももちろん、お弁当を持参していた。
『いや、私、自分で持ってきていますし・・・』
まあ当然、そう言う。
ところが、土門は負けなかった。
『いえね、こちら見てください』
そう言って、弁当箱を開く。私や敷島もやや興味があったので覗いてみたのだが、ちょっと見、おせち料理のような感じの折詰弁当だった。
『これが?』
宝生前はあくまで冷めていた。なんとなれば迷惑そうにすら見えた。
『実は、先日手に入れた文献がありまして、これ、東北地方のある家で祀られていた、オシラサマの命日の際の儀礼食の再現でして・・・』
ぴくり、と宝生前の耳が動いた。

