この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
天狐あやかし秘譚
第65章 主客転倒(しゅかくてんとう)

それは絶望を噛み締めさせるため、そして、身ぎれいにした、私が徹底的に穢されるところを見るため。
おそらくそうだろう、と、理解していた。
「お姉ちゃん、時間よ」
自分と同じ顔をした人間が、嗜虐的な笑みを浮かべて自分の身を引き起こす。可能なら、今すぐにでも逃げ出したいが、それを抑え、キヌギヌに手を引かれるまま、屋敷の地下に向かう。階層を二つ降りた先、土と石が剥き出しになった牢獄のような場所。ここが、異形『ヤギョウ』がいる部屋だった。
大きな閂のついた木製の門が開かれる。その先には不思議な光景が広がっていた。
そこは鍾乳洞のような大きな空間だった。いや、実際に、自然の鍾乳洞を加工して作られた空間なのだろう。門を入ると左右に篝火が焚かれており、ゆらゆらとその鍾乳洞を妖しく照らしていた。門から10メートルほど入ったところには、平安時代の寝殿造りに類似した木造の建物がある。数段の階段が据えられ、その上に板敷きの間がある。御簾や几帳、茵(しとね)などが据えられていた。
おそらく、大昔の寝殿造りの建物と異なるのは、そこにはたったひとりしか『人』がいないことだろう。なので、仕切りと言ってもまばらになっており、広い寝殿造りの屋敷がほとんどすべて見通せるような状態になっている。
『人』・・・あそこにいるヤギョウを果たして『人』と呼称していいのかわからない、そうスクセは思った。
「さあ」
キヌギヌがぼん、と背中を押す。思わずたたらを踏み、門をくぐる。そのまま後ろでぎぎっーと嫌な音を立てて門が閉ざされた。
正面、階(きざはし:階段の意味)を登った先にヤギョウがいる。
薄い白色に近い衣をまとい、頭には頭巾のようなものをかぶっている。『ようなもの』と言ったのは、それが正確には頭巾ではないからだ。本来顔が出ていてしかるべき部分すら黒い布で覆われている。目の部分すら空いていないのである。
ヤギョウの体格は良かった。今は膝立ちで座っておそらくはこちらを見ているが、立ち上がれば190センチ近くはあるだろう。肩幅が広く、ガッシリとしており、衣からはみ出ている二の腕や太ももは筋肉が隆々と盛り上がっていた。
おそらくそうだろう、と、理解していた。
「お姉ちゃん、時間よ」
自分と同じ顔をした人間が、嗜虐的な笑みを浮かべて自分の身を引き起こす。可能なら、今すぐにでも逃げ出したいが、それを抑え、キヌギヌに手を引かれるまま、屋敷の地下に向かう。階層を二つ降りた先、土と石が剥き出しになった牢獄のような場所。ここが、異形『ヤギョウ』がいる部屋だった。
大きな閂のついた木製の門が開かれる。その先には不思議な光景が広がっていた。
そこは鍾乳洞のような大きな空間だった。いや、実際に、自然の鍾乳洞を加工して作られた空間なのだろう。門を入ると左右に篝火が焚かれており、ゆらゆらとその鍾乳洞を妖しく照らしていた。門から10メートルほど入ったところには、平安時代の寝殿造りに類似した木造の建物がある。数段の階段が据えられ、その上に板敷きの間がある。御簾や几帳、茵(しとね)などが据えられていた。
おそらく、大昔の寝殿造りの建物と異なるのは、そこにはたったひとりしか『人』がいないことだろう。なので、仕切りと言ってもまばらになっており、広い寝殿造りの屋敷がほとんどすべて見通せるような状態になっている。
『人』・・・あそこにいるヤギョウを果たして『人』と呼称していいのかわからない、そうスクセは思った。
「さあ」
キヌギヌがぼん、と背中を押す。思わずたたらを踏み、門をくぐる。そのまま後ろでぎぎっーと嫌な音を立てて門が閉ざされた。
正面、階(きざはし:階段の意味)を登った先にヤギョウがいる。
薄い白色に近い衣をまとい、頭には頭巾のようなものをかぶっている。『ようなもの』と言ったのは、それが正確には頭巾ではないからだ。本来顔が出ていてしかるべき部分すら黒い布で覆われている。目の部分すら空いていないのである。
ヤギョウの体格は良かった。今は膝立ちで座っておそらくはこちらを見ているが、立ち上がれば190センチ近くはあるだろう。肩幅が広く、ガッシリとしており、衣からはみ出ている二の腕や太ももは筋肉が隆々と盛り上がっていた。

