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白昼夢
第1章 プロローグ
貴博はそう言うと苦しい顔でも微かに笑ってくれるのだった。
「貴博さん、逝かないで…」
私は、病床の貴博に抱き着いて泣いた。
貴博は私の頭に手を置き優しく髪を撫でてくれるのだった。
その日の夜に、貴博は息を引き取った。
当時、貴博はまだ53歳の若さであり、私は57歳だった。
葬儀は家族だけで執り行われた。
葬儀が終わり私は貴博の姉からこう言われたのだ。
「真理子さん、貴女の人生はまだまだ可能性があるわ。貴博の事を忘れろとは言わないけれど貴博に執着しすぎて、縛られて生きないでね…」
「お姉さん、私、貴博さんの事は忘れる事はできないと思います…」
「分かっているわ。でも、自分をもっと大切にして欲しいのよ…」
「ありがとうございます。お姉さん…」
そう貴博の姉から言われてもなかなか忘れる事はできないと思っていた。
私は、貴博を喪ってから生きる支えを失い、性欲も食欲も無くなっていった。
体重も8キロまで落ちて痩せ細ってゆくのが分かるくらいだった。
もう、自分の女としての人生は終わったとこの時感じていたのだ。
私は、貴博を喪ってから心の病に侵されていた。
精神科に定期的に通っては治療を受けていたのだ。
夜も精神科の医師から処方された睡眠薬を飲まないと眠れなかった。
精神安定剤も欠かすことはできなかったのだ。
おまけに、躁鬱状態になり、その薬も処方されていたのだ。
私は精神疾患患者になってしまった。