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許される条件
第2章 いらだち
「やめてよ、本当にぃ・・・」
まだ怒った表情のまま絵美は僕の手から雑誌を取り上げると、テーブルの下に隠すように置いた。

「恥ずかしいよぉ・・それに・・・」
小柄な背中を更に丸めて声を潜めている。

「みじめだわ・・・」
訴える目に僕は圧倒されながらポツリと呟いた。

「ゴメン・・・」
沈黙が二人を包む。

店の喧噪が5秒ほど遅れて耳に届いてくる。

「イヤラシイ・・・」
最後のセリフはさすがにしつこく感じて、僕は大きな声を出した。

「いいじゃないか、雑誌くらい読んだって・・・」
ジョッキを握ると、残りのビールを一気に飲み干した。

僕の喉が上下に動いていく。
暫く見つめていた妻は、やがて力無く視線を落として呟いた。

「だけど・・・」
消え入りそうな声なのに、僕の胸には十分に染み込んできた。

(僕だって・・・)
十分、分かってるさ。

(でも・・・)
たかが、本じゃないか。

僕の目がそう語るのを感じるのか、絵美の長い睫毛がヒクヒクと揺れていた。
テーブルの下の雑誌には、女優の写真と共にゴシック文字が躍っていた。

『特集!セックスレス夫婦の逃げ道』
『スワッピングパーティーの潜入ルポ!』

「この頃変よ、優君・・・」
細い肩越しに声が聞こえた。

「だって・・・」
意を決したように絵美は口を開いた。

「毎日残業で遅いし、
休日は家でゴロゴロしているだけで・・・」

「だから、こうして外食しているじゃないか」

「ええ・・・素敵な、焼鳥屋さんで・・ね」
僕の反論はピシャリと跳ね返されてしまった。

「家から歩いて2分の近さで・・・
それもジャージとサンダル履きの姿でもOKな、
とぉってもオシャレなお店ですものね」

堰を切ったように妻はしゃべり始めた。

「私の愛する旦那様は・・・
釣った魚にはもう興味が無いのか。

妻と会話もせずにエロ本を読む方が
楽しそうにしてるし・・・」

勢いが良かった声も徐々にトーンダウンしていく。
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