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第2章 旅の始まり

山門をくぐり抜け、二人は仏殿へと足を進めた。
仏殿の前で手を合わせて参拝し、静かに中へ入る。目の前に現れたのは、堂々たる威厳と慈愛をたたえた本尊・宝冠釈迦如来。その金色の装身具に飾られた姿は、時を越えた神聖さで境内を包み込んでいる。柔和ながらもどこか鋭さを感じさせるその眼差しは、見る者の心の奥底にまで届くようだった。

仏殿の天井には、前田青邨が監修した白龍の天井画が描かれている。その龍はまるで空を翔けるかのごとく、仏殿全体を覆い、訪れる者を見下ろしている。その姿に、沙織は一瞬、呼吸が止まりそうになった。

釈迦如来の目が、慈悲深さの中に厳しい警告を宿しているように感じた沙織。まるで、これから始まろうとする悠との関係に対して、「本当にその道を進むのか」と問いかけられているようだった。

天井からの何かを感じ、ふと視線を上げる沙織。そこに描かれた白龍の鋭い眼光が彼女の心を射抜くようだった。その眼差しは、重い鈍器で殴られるかのごとく沙織の胸に響く。それは邪な想いを戒め、清らかな心を取り戻せと訴えかけているように感じられた。

「すごい、白い龍がこっちを見てるよ…。」
悠が天井を見上げながら感嘆の声を上げる。その無邪気な響きが、沙織の胸に新たな動揺を生む。

彼の言葉にドキリとした沙織は、まるでその白龍が悠を守る存在であり、自分に対して警告を発しているのではないかと感じた。その瞬間、彼女の胸の内に浮かんでいた隠しきれない衝動や葛藤が、静かに打ち消されていく。

自分の心が見透かされているような気がして、沙織は内心、懺悔の念に駆られた。宝冠釈迦如来と白龍の眼差しに晒される中で、自分の不徳な背徳行為に自らを戒める思いが胸に宿るのを感じた……。