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雨が好き
第35章 枕元
胸が規則正しく動いている。
頬が赤みを帯びて、時折唇が動いていた。

その姿を見て、やっと、私は身体に血が巡りだしたように感じる。
同時に、視界がぼやけてくる。

「お父さん・・・あっち行ってようか?」
多分、気を使ってくれたのだろう。
お父さんが、そう声をかけてくれた。
少しだけ首を動かすと、お父さんが静かに扉から出ていく気配がした。

ぽろり、と涙が目からこぼれた。

『良かった』
そう思った。

息をしている。ちゃんと、ここにいる。
私の前にいる。
その事実で、胸がいっぱいになる。

そして、私はやっと理解した。
さっきまで、私が感じていた気持ち、
それが『恐怖』だったということを。

蒼人さんがいなくなること、
私の前から消えてしまうこと、
何よりも私はそれを恐れたのだ。

誰かがいなくなることを、
こんなにも恐ろしく感じるなんて・・・。

こんなことは、初めてだった。
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