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雨が好き
第37章 秋霖
「蒼人さん・・・遅くなっちゃって・・・」

病室の引き戸を開き、中に入る。
そのまま蒼人さんの病床に行く、と思ったけど・・・
扉から一歩入ったところで、私は立ち止まってしまった。

蒼人さんは、窓の外を見ていた。

窓を滑るいくつもの雨粒
その向こうの灰色に煙る空

その全てを通り過ぎて、
心が遠くに行ってしまったような
寂しそうな、悲しそうな
泣き出しそうな・・・そんな表情を浮かべていた。

立ち尽くして、言葉がでなくなった。
彼の心が、どこに行っているかが、
私には痛いほど分かってしまったから。

多分、5秒か・・・10秒くらい
私に、蒼人さんが気付いたみたいで

「あっ・・・みなとさん・・・」

窓の方から、私に顔を向ける時、
さっと目元を拭う。

こちらを向いたときには、すでにいつもの蒼人さんだった。
「今日もありがとう」
そう言って笑ってくれる。
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