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波の音が聞こえる場所で
第9章 安奈という女について
 だから僕は恐る恐る段ボールを閉じていたガムテープを剥がして、アマゾンのあのマークが入っている箱の中を覗いた。おおおお、よかった。箱の中にはカセットテープがぐちゃぐちゃになって入っていた。超有名で超が五つくらいつく優良企業のアマゾンはこんな雑ででたらめな梱包なんかしない。
 カセットを適当に箱の中に放り込んだ犯人は久須美だ。
 背が高くてちょっとだけ愛くるしい僕を二言目には借金まみれと罵る久須美。三十円くらい(もう正確な金額なんて覚えていない)の缶コーヒーを僕に勧めて、それを恩着せがましく事あるごとに言う久須美。そして僕はこの久須美のせいで大学をやめることができなくなった。僕は……僕はこのクソ田舎から大学のある池袋まで通うはめになったのだ。
 僕は死の一歩手前で久須美に助けられた……と思ったが、久須美は本物の死神だった。悔やんでも悔やみきれない。何で僕はこんなクソ田舎に来てしまったのだろう。
「いっちゃん、ゲームしようか?」
 もうどうにでもなれ。そのとき僕は間違いなくそう思っていた。
「ゲーム?」
「そう、ゲーム」
「どういうゲームですか?」
「目を瞑ってこの箱の中に手を入れる、そしてこのガラクタ(アーチストのみなさんごめんなさい)の中から一つだけ掴み上げる。クレーンゲームみたいな感じでね」
「それで?」
「その掴み上げたガラクタ(もう一度言います。全世界のアートストのみなさんごめんなさい)を必ず売る。絶対に売る。責任をもって買い取る」
「買い取る?」
 だってそうじゃないか、今の時代カセットなんて売れるはずがない。
「いっちゃん、こんなの売れると思う? 売れるわけないじゃん。でもさ、それじゃあこいつら浮かばれないよ。僕といっちゃんの二人で、このガラクタの中から二つだけでも助けてやろうよ。いっちゃんはお金出す必要ないから、どうせこんなの百円か二百円くらいでしょ(このときこのカセットという代物が高額であることを僕は知らなかった)。そんなの僕が奢るからさ。でも掴み取ったカセットは家に持って帰って」
「先輩って優しんですね」
「そう、僕は背の高い優しいお兄さんだよ」
「羨ましいです、先輩背が高くて」
 でもね、背が高くて優しいお兄さんがモテるとは限らないからね、という言葉は飲み込んだ。
「よし、いっちゃん、やろうか」
「何だかドキドキしてきました」
 
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